出演している俳優が松田優作と高倉健という日本の名優だ。『太陽にほえろ』のジーパン刑事を演じているのが松田優作であり、「なんじゃこりゃ」というセリフも彼が言ったものだ。
『南極物語』や『野性の証明』が私にとっての彼を代表する作品になっている。人によっては『網走番外地』や『幸福の黄色いハンカチ』が代表作になっているかもしれない。それだけ彼ら観客の心に残るような演技をしてきたという事だ。
あらすじはアメリカから一人のヤクザを護送していた二人の刑事が大阪の空港で偽警察官にヤクザの身柄を渡してしまい彼を捕まえるために大阪府警の刑事と協力して追いかける話だ。
この作品は松田優作の遺作であり彼は佐藤という凶悪ヤクザを演じていて、警部補の役を高倉健が演じている。
病魔に冒されながら悪役を演じた俳優は松田優作以外にも『ダークナイト』でジョーカーを演じたヒースレジャーがいる。どちらにも共通する事は観客に恐ろしいと感じさせる演技をするところだ。
松田優作扮する佐藤はバイクを加速させながら地面に長ドスを押し付けて火花を散らせたり、手の甲を刺したりなど行動に容赦がない。
身なりも一目で悪役と分かるような格好をしている。ヤクザというよりはアジア系マフィアや殺し屋と大半の人が印象を持つ。
この男が『探偵はバーにいる』でそれなりの腕っぷしがあるマイペース農業大学教授を演じている松田龍平の父親とは思えないが、目元は松田龍平と似ているので親子だと分かる。
題名にもなっているブラックレインは一体何を意味しているか本編のあるセリフで明かされる。
空襲で焦土と化した日本に虚しさを物語る黒い雨が降り、その後アメリカ文化が入って、戦争で疲労している国民はそれを受け入れるしか出来なかった。
アメリカ文化が日本に入った事でかつてあった礼儀が失われ、佐藤のような礼儀を弁えず目先の利益の事しか考えない人間が増えた。
ブラックレインは佐藤と黒い雨が降った元凶であるアメリカを指している。
黒い雨は焼夷弾で家屋などを焼いた時に発生する大量のススが舞い上がり、上昇気流が発生して雲が出来る。その時に黒いススを取り込んでいるから黒い雨が降る。
内容も面白いが、格闘場面もなかなか見所だ。今の映画のように関節技を多用する格闘ではなく、殴り合いだ。単純明快かつ手に汗握る戦いとなっていて男のロマンを感じさせられた。
肉弾戦は主人公であるアメリカの刑事がしていたが、高倉健演じる松本警部補は主に銃撃戦を展開していた。
あっさりと死んだヤクザの中には島木譲二もいた。彼は吉本新喜劇で一斗缶や灰皿で自分の頭を叩いたり、両手を交差させながら自分の胸を叩いたりなどしていたスキンヘッドで半裸の印象が強い人物だ。
松田優作がここまで印象強異悪役を演じている作品はおそらく『ブラックレイン』を除き存在しないはずだ。彼は尽きる寸前の命を燃やし作品を市場最高の出来へ導いた。
に時間があっという間に感じる観客を一秒たりとも飽きさせない作品だった。出来る事なら劇場公開している時に観に行きたかった。
個人的に心に残っている場面は二人がそばを食べている時に間違った箸の持ち方をしている主人公を見た店のおばあさんが持ち方を教える所だ。外国人だからという差別をせず日本人と同じように接し、上手に持てるようになれば褒めていたおばあさんに古き良き日本人を感じた。
この場面が佐藤のような利己主義者ではなく、本来日本にあった礼儀や人情を持ち合わせていた人はこういう人間だと観客に見せる監督の考えが伝わった。
やってみせ、言って聞かせてさせてみせ、褒めてやらねば人は動かじ