ネガティブタイム・ポジティブタイム | ALS記

ALS記

2023年2月13日に診断されて、現在進行中。とりあえず仕事は続けています。進行がとても遅い症例のようで、その状況を記録して発信していこうと考えています。

 思春期以降のことだと思うが、布団に入って「さあ寝るぞ」という時に、物凄いマイナス思考に陥る。その日あったことをウジウジと悔やんでから眠るという恒例イベント。ちゃんと悩んでから眠らないと、割とひどい悪夢を見る。でも、起床して暫くはこれを引きずりつつ、人と会うとポジティブに戻れる。

 

 恐らく、無意識にある人格が顔を出すのがこのタイミングなのだろう。意思が管理している人格は経験からのフィードバックで構築された人工的なもので、それなりに世慣れた性格をしている。初対面でも臆さず話せるし、他者の意図を見抜く方法も身につけている。対して無意識の人格は幼少時のままで、グズグズと決断もできずに人見知りで引っ込み思案。「行動してから後悔すればいい」が意識下の人格で、「後悔するくらいなら行動しない」が無意識下の人格。このバランスで自身の言動が構成されているのだろうと思う。

 

 ALSの診断を受けてそのままラジカット入院になった夜も、奈落の底に引き込まれるような悪寒がしてパニックになったのを覚えている。診断を受けた時は「まあ仕方ない」ぐらいだったんだけど。無意識の自分の中で心が折れたのだろうと思う。

 

 これは退院後も続いていて、そこに手足が攣ったりピク付いたりが加わっていて、最近はもう眠るのを諦める夜が多い。

 

 とはいえ、昔の労働環境で寝不足には慣れている&在宅リモートなのでそんなに苦ではない。

 

 起きている間の私が割と前向きな思考傾向があるのは、雑誌編集者をやっていた経歴が影響しているように思う。信じられないほどタイトなスケジュール、刻々と変わる状況への対応、思っても見なかったアクシデントの克服というのが毎回毎回やってくる。事務所の空調を止められた真冬・深夜の編集部で、涙目で数百枚の写真アタリを貼ったり、怒鳴り込んできた印刷所に編集長が土下座する横で狂ったように原稿を打ち込んでいた日々。

 

 そうした中で「とにかく現時点でできることをやる。できなくても何とかする」というのが人生指標になっていた。それが染み付いているから、ALSで失われていく生活機能に取り組むのもそんなに深刻ではないのかもしれない。

 

 そうやって割り切っている意識下の自分と、途方に暮れている無意識下の自分。なかなかに興味深い相克が今進行している。社会的な活動を独占している筈の意識下の自分が集中力の欠如に苦しんでいるのは、無意識下の人格が徐々に侵食してきているのかもしれないと思うと、少し怖くもある。