LIFE IN A DAY 地球上のある一日の物語 | 人力飛行少年の肉体を脱ぎ捨てたなら

人力飛行少年の肉体を脱ぎ捨てたなら

ネットの海を漂う吟遊詩人になって
見知らぬあなたに愛を吟じよう



人力飛行少年の肉体を脱ぎ捨てたなら
製作総指揮 リドリー・スコット、トニー・ スコット
監督 ケヴィン・マクドナルド
編集 ジョー・ウォーカー
2011年 アメリカ、イギリス

数年前に、雲ひとつない晴れ渡った空の大阪を後にして、
兵庫県の城崎温泉に向かう列車の車窓から見える風景が、
次第に白一色に覆われた雪景色に変化していく様を見て、
同じ日本に住み、同じ時間を共有しながら、僅か200キロの距離の
隔たりだけで、これだけの住環境の違いが生じるのかと、
感慨深い気持ちになったことがありますが、人間にとっての日常は、
住環境以外にも、文化、性別、年齢、職業、趣味などによっても、
ライフスタイルの違いが表れてきます。

本作は、動画投稿サイト“YouTube”が、そんなライフスタイルの違いに
着目して、2010年7月24日の日常風景を撮影した映像を求める
メッセージを全世界に発信し、その呼びかけに答えた8万人が投稿した
映像を、1時間30分に編集して生まれた作品です。
映画を観る前は、誕生と死、戦争と平和、飢餓と飽食、自然と文明、
破壊と再生などを対比させて、人間とは何かを問う、メッセージ性の
強い作品になるのではないかと推測していたのですが、
ビデオカメラを自由に撮れる安全な場所に居る人たちが撮影した、
日常の営みを繋ぎ合わせて見せただけの作品なので、衝撃映像や
面白映像を期待している人には、お薦めできない作品です。

人力飛行少年の肉体を脱ぎ捨てたなら

ギリシャ神話の『王様の耳はロバの耳』で有名なミダス王が、
半獣神の賢者シレノスに、“人間にとって最も善いことはなんだ”と
問うと、シレノスは、“もっとも善いことは、御身にとってまったく手の
届かぬことだ。それは、生まれなかったこと、存在しないこと、
なにものでもないことなのだ。”と答えるのですが、本作の投稿映像の
ラストに登場する女性が、“今日は何もない一日だった”と、悲しげな
表情を浮かべるのを見ると、人間として存在していることの、
遣る瀬無い思いを感じずに入られませんでした。

因みに、私の2010年7月24日の日常を、手帳で調べてみましたが、
ラストに登場する女性の日常と同じく、時間だけが通り過ぎていった、
記憶されることのない白い1日でした。

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