監督 ガブリエル・アクセル
出演 ステファーヌ・オードラン
1987年 デンマーク
本作は、デンマークの海辺にある小さな田舎町を舞台に、
この世にある喜びは幻影で、真実は来世にあるとする
敬虔な正統派教会を設立した父の後を継いで、
ひたすら慈善活動をして質素に生きるマーチーネとフィリパの姉妹と、
パリ内乱ですべてを失い、姉妹のもとに逃れてきて家政婦として
働くバベットの忠誠心と自己犠牲による見返りのない愛の姿を
通して、何不自由のない満たされた生活の中で生きる現代人の、
空虚感や孤独感と言ったものの本質を問いただす。
本作は、1985年度アカデミー賞で最優秀作品賞を受賞した
『愛と哀しみの果て』の原作者アイザック・ディネーセンが、
1950年にアメリカの雑誌『レディース・ホーム・ジャーナル』に
書き下ろした短編小説を映画化したものだが、
映画を観た後に原作を読んだ所為もあるが、
原作が映画をノベライゼーションして書かれたものではないのかと
思うほど、映画は原作を完璧に映像化している。
クライマックスの晩餐会の場面にいたっては、
観客の私も、パリの最高級レストランのシェフであったバベットが
発明した『一種の情事』とまで賞賛されたフランス料理を、
登場人物たちに混じって食しているような錯覚に陥るほど、
文章では味わえない至福の時間が映像に満ち溢れていて、
この場面に限っては、原作を超えたと言っても過言ではない。
原作者のディネーゼンは1962年に亡くなっているが、
死因が栄養失調だったそうで、
本作との因縁尽くを感じずにはいられない。
(2008年10月6日)