文学ing -54ページ目

文学ing

森本湧水(モリモトイズミ)の小説ブログです。

大学院生のころ、暇が出来ると祖母に会いに行った。私には愚悪な祖母と総賢な祖母とが居るのだが、私が会いたかったのは、言うまでもない。
暇な学生だった。不真面目だから。ああ、やることがない。おばあちゃんちにいこ。おんぼろの、それでも入学祝に買ってもらった軽ワゴンをがこがこと。転がして会いに行った。
祖母は、たいへんな働き者で賢い人なんだが、末孫の私が二十歳を過ぎていたから、肉体のダメージは、推して知るべき、だ、た。
おばあちゃ。
祖母の部屋は、大きな屋敷の一番のすみにあり、申し訳のキッチンとトイレで封印されて。隔離されていた。そのことに関し、私は、いま何人かを憎む。
おばあちゃ。
隔壁を掻い潜って襖を開けると、祖母はリクライニングベッド(先に死んだ祖父のものだ)に涅槃して、水戸黄門を流し見ていた。
いずみちゃん。
私の顔を見ると笑った。コーヒー飲む? ええなあ。
私は、本宅のキッチンを勝手にあさって祖母と自分にクリーム入りのコーヒーを作った。
私は祖母を好きだったし、祖母は末孫の私を大事に育ててくれた。
その祖母が居なくなって、十数余年。
私は怨み深く
汚く
臭く
なり、
白玉の息子たちだけが香木のようなゆめに休む。
ありがとうおばあちゃん。
ただ、私は怨嗟の巌。