文学ing -41ページ目

文学ing

森本湧水(モリモトイズミ)の小説ブログです。

「浮気されたって?
じゃ、殺したらいいよ。そのつもり無いんなら許してやりな」
なんで、この母に話したのか分からないんだが、妻に他の相手が居たことに、どうも打ちのめされたらしい僕は実母の部屋にいたのだった。みじめだ。
「阿呆もの。」
と母は、日課である株のゲーム、実際にやり取りするのではなくて、シミュレーションだけするアプリだ。それをたかたか鳴らしながら、
「冷蔵庫に入ってるから取ってきな」
と缶ビールを示した。
「まあ、しっかり教えなかった私も悪い。付き合うさ。飲んでいきなさい」
この人は、間違いなく実の母なんだが、我々にはおよそ肉親のふれあいと言うものがない。僕には幼い日の記憶は無いし、運動会とか参観日とか、そういう単語は大学院生以降に知った。本当に知らなかったのだ。
だいぶ酷い人生を送ったようである。それを知らせてくれたのが、今の妻だった。明日にはどうなっているか分からない妻だった。
「男ってのはな、部品さ。女にとってな。自分の生活、そうだな、プラモデルみたいなもんさ、それを、好き勝手つなぎ合わせておくための部品さ。強いのが欲しいやつ、美しいものを欲しがるやつ。いろいろだな。気に入った部品があれば買うさ。買ってみて気に入らなければ捨てるさ。そういうもんさ。で、君は何が気にいらないんだい?」
ぶさっ、ごくごく、ふひゅー、
と言わせてから、母は言った。
「殺すつもりならやぶさかでないよ。大体において、部品を買うことに女はへたくそだ。間違ったものばかり買う。君が腹立ててるんなら、殺そうよ。でもね。たかだか買い物だよ、君は。買われたのさ。そのくらいで腹立ててやんなさいな。買ってもらった分際が」
すごく腹が立ったし、この二人の女に。僕の背中側は台所で、つまり得物は山ほどあった。勝手口に斧さえ立て掛けてあったんだ。ラスコーリニコフみたいには、振る舞えたはずだ。
やめた。
母は、ゲームに没頭して何も言わなくなってしまったし、母のところで過ごしながら、僕はそもそも自分の人生に何も望まなかったことを思い出した。

「子どもが欲しくて相手作って、出来ない、なら取り替えればいい。それをしないで、なんで苦しむ?分からない。何が望みか?君に子どもを作る力がないなら、他を当たるのが然りさ。猿以下だよ君もその女もね。まったくね」