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文学ing

森本湧水(モリモトイズミ)の小説ブログです。

祖父は、けっこう偏執的な学者で。鳥の研究をしていたのだけど、鳴き声のサンプルを録るために、薬を使ったり、要は虐待をよくしていたらしい。
70年前のことなのでそんなことを咎める法律もなく、祖父はやりたい放題だったけど、だからと言って何かを遺した訳ではなかった。
図書館で祖父の名前を検索したら、3冊蔵書が在るということだったが、司書の人が血眼で探しても、書架のどこにもその3冊は無かった。祖父は、完全に消え失せていた。呪いを招いて。
さて、ではどうして私が呪われることになったのでしょうか。
嫁いできた母が、私を身籠って寝ていたある夜、部屋に、巨大なカギ爪と青虹色の翼を持った鳥の体に、真っ黒な髪をターバンみたいにぐるぐる巻き付けた女の子が現れて、
「呪いを受けろ」
と、母の顔を睨んで言ったらしい。おんなじことなら祖父に呪って欲しいものだ。
はい、と言う訳で私は呪われて、歌をうたう時だけ声が出なくなった。
幼稚園の時からいじめられたし、先生たちも酷い扱いで、親たちは何度も診断書を拵えたけど、しんだんしょ、と言う漢字も読めないような大人が次々に目の前に立ちはだかった。悪いのは祖父なので、全く割りに合わない話だけど、便利なこともある。
恋しいあなた。
私には、好きな人がいるので、夜中にその人を思って愛をうたうのがいっちばんのストレス発散である。
だって誰にも聴こえないもの。もちろん、その人にも届かないもの。であるのでこれは呪い、じゃないかな。好都合というのだ。
その人は20歳年上できれいな妻と賢い子供がいる。
それでいい。ただ、私は透明な喉を枯らして、思いをうたう。