「なにそれ」
近所にすんでいて、と言うか近所にこいつしか住んでいない山根くんは、よくうちにきて宿題を一緒にするんだけど、最近こんなことを聞き出した。
「おれ魔法使えるようになったから」
「だからなによそれ」
私は、自分より数学が得意な山根くんに三次方程式の答えを写させてほしいんだけど、いっかなそんな話題にならないので、仕方なくひとりでしくしくと計算してる。彼はとっくに自分の問題を解き終えて、さっきからトランプをいじっている。
「だからさ、どっちか選んでみろって」
「いやだからさ、意味分かんないんだって」
「簡単だよ。右なら魔法、左手だったら手品だよ。だから好きな方選べよ」
「なにこのさっきから意味のない会話」
「生きたいか死にたいかだろ」
言われて、ぎくん、となった。
「このままこの村にいたらふたりとも死ぬぜ。やることねえもん、金稼げねえもん。でも、外に出たら生きられるかもしれないぜ。仕事あるだろうし、金稼げるかもな。つまり、お前がどっちを望んでるか知りたいんだよ」
山根くんは、震える声で言った。
「例えば、」
私は真剣な声には真剣に答える、できるだけ。
「魔法をえらんだら」
「死ぬな」
「手品をえらんだら」
「生きられるかもな」
ここは限界集落で、子どもは私たちしかいない。私と彼と、ふたりともいなくなったら部落が滅ぶ。でも、ここを出ていけば、私たちは生きられるかもしれない。
「私に今ここで人生を選べってこと?」
「ひっくり返したら色が変わっててみんな幸せって訳にはいかねえんだよ。俺はここを出ていけない。そういうことになっている。だから。まあ、遊びだな」
これはな、といって、2枚のトランプのカードを示してくる。
「リーディングね」
「なんだ?」
「相手に気づかせずに任意のカードを引かせる技術でしょ。そのくらいは知ってる」
「で、おれのリードについては?」
こういう二択を迫ってくるから時々苦笑いする。
私は、彼が居ない所では生きない、と言う三択めのことを、彼がいつもミスするのだから。