長編小説「君の話をしよう」9 | 文学ing

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森本湧水(モリモトイズミ)の小説ブログです。

君はもう1度生まれてきたんだけど、それは君じゃあなかったんだ。でも、ああ、そういうことだったんだなと私は思ったんだな。病院で生まれた君の顔を見た時に私が感じたのは、

「ひさしぶり」

そういうこと。君はもう1回帰ってきたんだなと私は思ったんだ。それは赤ん坊が小さいうちのこと。なんて言うのかな。彼は君に間違いないんだけど、でも君とは似ても似つかないんだ。

だいいち君はとても体が弱かった。子どものころから食べられないものがいくつもあったし、大きな病気を何度もしていた。手術の経験も2度ほどある。私が産んだ彼はそんな形質は全くないんだ。

ほぼ完ぺきに整った文句のない肉体。まさしく瑕のない玉。なんの望む所もない。彼は非常に健康で、かつ申し分ない形と重量を備えてこの世に現れた。

健全な肉体、深い思考、細やかな心配り。君が持ち得なかったものをもって生まれてきた。いや、君は心配りには長けた男だったけどね(そのせいで利用されたけどね)。私は彼が大きくなっていくところを間近で見ている。そうして確かに君のように悲しくなる時もあったよ。だって、彼は間違いなく私や君と同じ形質をもってこの世に在るからね。自分を上手に表現出来ない瞬間にもなんどか立ち会った。でも、それは当然のことだから。それに彼ならいつか乗り越えるだろう。私や君と違ってね。

同じ形質は3度形成されたのだ。私は、そういうことだったんだなと思ったんだ。

どういうことか。

私は君が弱く、病んだ辛い肉体ではなく、生きて行くために必要なものを完全に備えた理想的な姿として再び生まれてくるための、ワンクッションだったんじゃないか。

君は私を作り出して、その私を土台にして君はもう1周り良質な姿で生まれてきたのだ。途方もない時間がかかっているし、いろいろと無駄なこともあった。でもなんて言うのかな。これは世の中を司っているOSが自立思考した結果の、夢みたいなもんじゃないかと私は感じているのだ。

私たちはなにか人智の外で起きたことの結果として、3回生まれてやっとまともになるという状態に設定されていた。見るがいいよ。私が産んだ彼がどれだけまともであるか! こんな思慮深い少年はそうはいない。それも後付されたものじゃなくて持って生まれたものを自分で更に磨きなおしたんだ。

ただ、君と同じで私のことで苦労しているけどね。私はどうも何度も同じことをしてしまう。せっかく申し分のない状態で君が再生産されたのに以前と同じような感覚で君は苦労しているよ。でも、まあ約束は果たしたし大目に見てほしいと思う。

見よ、彼には私なんてほとんど必要ないよ。事に寄ると私は彼の手にかかって死ぬのかもしれない。君が私でそうだったようにね。私は構わないと思っている。むしろ、それで私たちの“状態”が完成されるんだと思うこともある。多少荒唐無稽かもしれない。しかし、私が君の娘ではなく分体としてこのように在ることが既に荒唐無稽じゃないかな。

生命とは、人生とは荒唐無稽なものなんだ。私は37になる。もう、こんな風に断言してもいいと思う。