長編お話「芦原血祭物語」“ルーター” | 文学ing

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森本湧水(モリモトイズミ)の小説ブログです。

「ささこだ。」

近所に住んでいる同い年の笹子んちのおばちゃんは私の母の双子の姉だ。姉、だとされている。

生まれた時に、きちんと順番が記してあったろうに、私たちの母やはあんまりにもそっくりなので、ある日どっちがどっちか分からなくなってしまったそうだ。

なぜなのでしょうか。

お風呂上りに裸で遊びまわっているのを捕まえようとしたら、どっちがどっちか分からなくなってしまったのだそう。その時母とおばちゃんは、2歳。まだお互いの名前も言えない。

 

それぞれの名前を呼んでも、

「はーい。」

と同時に返事をしたんだそうです。あるのかなあ、そんな話しも。とりあえず、私んちの母の方が姉、と言うことにされて、姉の名前で呼ばれるようになった。だから笹子んちのおばちゃんが、妹なのだ。

 

ささこだ。

と思ったら、携帯のコールが鳴った。ささこ本人かと思ったんだけど、意外にもおばちゃんからだった。また何かにひっかかったんだなあいつは、と私は携帯を取りながら考える。

 

双子の母たちは、それぞれ同じ高校に進学して、同じ大学に進学して、同じ学校で彼氏を作ってそのまま結婚した。

父たちもこの近所の出身だったので、双子の母親は未だにくっついて生きている。そして私と従妹の笹子も、小さい時からくっついていた。

 

そう、くっついていた。笹子は小さい頃からやたら身体を壊すこだったのです。身体が弱いわけじゃない。普段は、とても元気で男子としょっちゅう殴り合いの喧嘩をしていた。

でも、よく身体を壊した。そのたびに、私が直していた。だって、私、直せるもの。

 

私と笹子は、なんだろうな、ルーターとスマホみたいな関係じゃないかなと私は思っている。この街で起こる、なんだかわけのわからない、少なくとも人が関係していないことを、出来事、もめごとを、笹子がキャッチする。そして処理するのが私。演算装置が私なのです。

 

「ミツキちゃん。お願い。すぐ来てくれる。」

でんわごしに笹子のおばちゃんが言うのだ。

「うん、あのね、おばちゃん、玄関に盛り塩したでしょう。それ、今すぐ片づけてね。」

「どうして。」

「じゃまじゃま。」

 

私は笹子の家に行くべく自転車のキイを持って玄関の戸を開けた。ご先祖だ。今回化けて出てきたのは。

玄関に塩なんて置かれたら、そのひとが中に入ってこれない。その人は家に入りたくて笹子に祟っているんだから、先ずは入れてあげないと。

 

私は自転車をこぎながら、

「おなをとへばおそれこし とはずばおそれこし」

とうたった。歌いながら、ああ、笹子はお腹が痛くてひいひい言っているな、と感じる。

「先亡さま先亡さま、はいりめせはいりめせ。」

とうたいながら、私は自転車こいで笹子の家にやってきた。

 

「ああ、ミツキちゃん。今ね、やっと少し痛みが引いたところなのよ。」

とうちの母と同じ顔のおばちゃんが言う。笹子の体調不良は私が大抵直しているから、あ、うん、の呼吸でおばちゃんは詳しいことは何も言わない。

「はいはーい。」

上がってみると、笹子は仏間に布団を敷かれて寝ていた。あーあ。と私は思った。

「おばちゃん、だめだよ。これはこっちのご先祖さま。」

 

母方の家系のご先祖が迷って出たのだ。父方の仏間に入ったはいいけど、困っている。

私は、

「このてはわが手に非ず、」

と言ってから、ミツキい、と布団の中で恨み節の笹子を一回見る。

 

「あっちです。」

と指差したら、笹子が布団から起き上がって、

「処置が遅い!」

「でも治ったでしょう。」

「なおったけど!」

笹子は怒っていた。小さい頃からいつも怒る。なおすのが遅い!と言って怒る。

 

この街で起こる、なんだか分からない、少なくとも人がやっているんじゃない出来事やもめごと、その影響をもろに受ける笹子は、実際どんな苦痛に悩んでいるんだろう。

肩こりや頭痛や発熱。

 

そう言えば、最近笹子が壊れる頻度が増しているな、と私はちょっと気になった。