それをやったのが自分の兄ということを、目の前の出来事を、現実とを、何かが無理矢理にでも引き剥がそうとしている。
そんな感覚で、
裸でいることよりももっと現実的に私はある寒気で震え上がっていた。
「ソウスケ!」
ソウスケはしばらく信行の頭の辺にしゃがんでいたけど、
「…殺したの?」
私が聞くと、
「大丈夫だ。」
と答えた。
「この程度で死ぬなら、その程度の男なんだろう。仮にもスポーツマンなんだろう、お前の彼氏は。」
皮肉たっぷりと言う感じ。
「何が大丈夫なの?」
もし、もし信行が死んでいたら、大丈夫なことなんて何もない。
「この部屋にはお前のされたことの痕跡が残っている。尾前が今まで何をされていたか、俺が見ただけで分かる。
だからこいつが万が一死んでいたとしても、正当防衛が成り立つ。生きていとしたら、そんなことを警察に言い出せるはずがない。」
「なんでそこまで!」
私はソウスケを非難したつもりだったのたけど、彼は私の冷えきった皮膚を更に震え上がらせる様にして。
もっと冷たい目で私を見下ろしただけだった。
ソウスケはしばらく私の姿を見て黙っていた。
信行は、うえへ、と言った感じの息をしたような気配があった。生きてる。私はぞっとした。打算的な自分に。警察沙汰にならずにすむ。
いや、事態はとっくに警察沙汰かもしれないけれど。
…ソウスケは、ポケットの中からペンチを出してきて、私の手の結束バンドを断ち切った。無言のままに私の手首を両手で掴んで、
掴んでしばらくそうしていた。信行は床に伸びていた。
「…帰るから。服を着なさい。」
とソウスケに命令される。
「どこにあるのか分からない。」
私は首を横に振った。
ふ、とソウスケが鼻で溜息をつく。
「何処までも不本意なんだが。」
ソウスケは信行のベッドの上からブランケットを取り出して、それで私の肩から下をすっぽりと包んだ。眉間にシワが寄っている。
「全くもって不本意なんだが。」
無精無精に。
どうしてここが分かったの。どうした来たの。
私は、声に出して言ったつもりはなかったのに。
「お前が何をされているのか、俺に分からない筈がないだろう。」
言うが、私は兄の手によって抱えあげられた。ブランケットに包まれたまま。
その時私はソウスケがずっと靴を履いたままなことを思い出す。この人は人の家で靴を脱がなかったのだ。その靴で、もう一度信行のお腹を強く踏んづけた。
「死んでおけ。」
そう、兄は言うのだ。信行が履いた唾は赤かった。