小説「今日も乾きません。」 | 文学ing

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森本湧水(モリモトイズミ)の小説ブログです。

最初は本当に、タタリかとおもったわよ、まったく。

 

と、電話の向うで友人は怒っている。

「塞の神の庵を壊して、罪滅ぼしの今の土地に住まなくちゃいけなくなった家系なんで。」

と、言われて山奥の実家を持つ男性と結婚した、その友達は。

イヤイヤながらに旦那さんの実家に引っ越したんだけど、それ以来、どんなに晴れた日でも洗濯物は決して乾かないのだそうだ。

 

「布団さえも時々湿っていることがあるの。」

これは本当に、タタリってあるのね、って最初は驚いたわ、すなおだったわ私もね、と言って友達は怒っている。

 

塞の神様というのは、地下水の要衝に祀られる大きな岩の座を象徴にしたもので、旦那さんの先祖は里山の塞の神様の岩をうっかり壊してしまったから、それ以来、岩を祀る代わりにずっとその土地に住まなくてはならなくなったのだと言う。

めんどうな奴と結婚したもんだな。

しかもその旦那さんのお兄さんというのが狡猾で、自分はさっさと両親と喧嘩して都会で安定した仕事を見つけて、自分の家族ととんずらを決め込んだらしい。

 

となると残っている次男さんまで都会に逃げ出すわけに行かず、友達は、大分反対したんだそうだけど、仕方なしにその山裾の古い家に移り住んだのだ。

 

そして、

洗濯物干しに掛けた洗濯物が、毎日毎日生乾きのままなのだという。

 

「しかたないからね、ハンガーのまま取り込んで家の中に仕舞うんだけど、それだと家の中がしけるからもう壁紙とか黒ずんじゃって。」

と心からうんざりしていた。

 

水に関わる神様の怒りを買ったから、水にかんした仕返しを受けているのかしら、と考えていた自分が素直すぎて腹が立って仕方がない、と友達は言う。

だってその間友達は、どうしても乾かない洗濯物を抱えて三日に一度は街に行ってコインランドリーを使わなくてはならなかったのだ。

たしかの山のすぐ麓というのは湿気がこもりやすいものだろう。タタリというのは考え過ぎだと思うけど、しかし引っ越してからそうも毎日なら、友達の心労もどれほど、

と私は心配していたのだが。

 

たたりの正体はとんでもない正体だった。

 

「離婚も視野に入れて、医療事務と翻訳の勉強始めたわ。」

と怒り心頭の友達は言う。頭のいい友達だから、どっちの資格も無事にとって、充分自活して行けるだろう。幸い、まだ子供は居ないし、人生をやり直すにはわたしたちは充分に若い。

 

洗濯物がいつも乾かない理由。それは、旦那さんのお母さんが(自分も同じ目に遭っていたことがのちに判明。)

毎日夕方になると霧吹きで洗濯物に水を浴びせに来ていたのである。

 

友達はある日洗濯物を取り込もうとしてその現場を取り押さえた。

しゅうとめさんがどうしてそんなことをしているのか、不明。とにかく彼女の洗濯物が乾かなかったのは、毎日しゅうとめが霧吹きで水をかけていたからなんだった。

 

「出来るだけ、早く別れた方がいいよ。」

と私はアドバイスする。

「何かタタリよねえ、まったく。」

憤慨している友達。

「旦那さんのことはもう好きじゃないよね。」

と私。

「マチコンのいいところはね、いろーんな所に目をつぶって、それで結婚してもいいかなと思える事よ。

で、目を開けたら、離婚しなきゃ。」

と友達は言った。