小説「近所で豚を飼っているんです」 | 文学ing

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森本湧水(モリモトイズミ)の小説ブログです。

ご近所で、豚を飼っているお宅があるんです。
犬や猫なら分かるけど、豚なんて。
と思っていましたが、重宝すること意外。私は今日も、いそいそとその豚を飼っているお宅に向かうのです。

「あらこんばんは。」
と言ってその家の向かいの奥さんが振り返って笑った。
「良く食べてます?」
ええ。と指差す方向に、どうも茄子とピーマンを中華風に否めた残飯が見える。
「あら、うちも今日は中華でした。」
一応ね。
と私は、皿ごと持ってきた肉団子の、酢豚風をでろでろっと豚の鼻先に開けた。

「どうぞどうぞ、ご勝手に。」
人のいい家主が言うので、私たちは家族が食べ残した夕食を、豚の餌にすることにした。

どこのお宅も同じこと。
亭主は飲んだくれて帰ってきて腹一杯になっているし、くそがきどもは好ききらいしてばっかりで箸をつけたらそれで終わり。
どこの家でも毎日大量に残飯が出るのです。

「良く食べてくれて助かるわあ。」
と近所の主婦は言った。もふがもふが言いながら、豚は鼻を汚して茄子のかけらを啜っている。
「そう言えば、この豚はいずれ食べちゃうんでしょうか。」
ふと、聞いた。
「イヤだ。
ダンナの食いさしで出来た豚なんですよ。誰が食べるもんですか。」
本当に嫌そうに言うのです。
「はあ。」
「それにこの豚ちゃん居なくなったら、おうちの生ゴミ増えちゃうわ。」
居てくれないと困るわよ。
「そうですね。」
私たちは、誰からも省みられなくても、誰も手をつけなくても、毎日鍋を火にかけて、煮炊きする。誰も食べなくても、軒並みゴミにするにしても、呪われたように毎日家族の食事を作る。

誰も食べないと分かっていても。
ご飯を作ることを私は止めない。

そんな私たちの怨嗟の名残をもりもり食べて、その家の豚は、びっくりするほど大きく、美しい、豚肉色に育っている。