“ソフトクリーム”。 | 文学ing

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森本湧水(モリモトイズミ)の小説ブログです。

ここ何日か、ソフトクリームが食べたいと思っていた。アイスクリームではなく、ソフトクリーム。暑かったせいだろうか。

私は酒飲みなので甘いものは妊娠している時くらいしか食べない。

だからここ何年も甘いものなんてめったに食べない。

それがこの何日、ソフトクリームが食べたいなあ、と思って焦がれていた。

 

 

さっき買い物に出たついでに、ケーキ屋さんのショーケースにソフトクリームのサンプルがあったので、一つ注文して食べてきた。

バニラとチョコのミックスをカップに入れてもらった。

 

子どもの頃、鳥取市内にしょぼくさい貧乏くさい、今は潰れたディスカウントショップがあって、週末よく家族でそこに買い物に出かけた。

我々の母親は買い物の下手な人なので、冷蔵庫にいっぱいの食糧があっても買い物に出かけた。

結果買ったものはじゃんじゃん腐った。私はそういうものがどれだけお金の無駄になるかを知っていた。

だから家のお金のことが心配だった。大根一本籠に入れられても震え上がったもんだ。

 

でも

2、3週に1回くらいの割合で、買い物帰りにフードコートでソフトクリームを買ってもらった。私はそれが大好きだった。そればかりは赦された贅沢だった。

 

私が一番好きだったのがバニラとチョコのミックスで、

(というかその店にはバニラかチョコかミックスかという三択しかなかった)

しかしミックスはなかなか選ばせてもらえなかった。

もったいないという理由で。

 

もったいない?

今にして思えば値段なんてバニラだろうがチョコだろうがミックスだろうが同じはずである。

うちの親は買い物は下手なのに貧乏性だったので、

バニラとチョコをいっぺんに食べると何か琴線に触れるものがあったのだろうか。貧乏の琴線にふれたのだろうか。

もったいない。

そう言ってなかなか買ってもらえなかった。

 

なかなか買ってもらえなかった食べ物を、自分の稼いだお金で好きに食べている。

 

カップのソフトクリームをスプーンで食べている私の隣のベンチに、

重そうな書類カバンを持って緊張の面持ちのおっさんが、私服で大股ひらげて座っていたんだが、おもむろにハンカチで額を拭くと、スマホを出してどこかへ電話を掛けた。

 

「はい、今、もう、来とりますが。今日でしたなあ。大丈夫でしょうか。

え。はい。はい。ええ。ええですよ。そだら。また。はい。」

 

などと言って、電話を切った。なにか、大事な(そのおっさんにとっては)約束を当日にすっぽかされたらしい。

 

…私はソフトクリームを食べていた。おっさん、さぞかしがっかりしているんだろうなあ。

と思って、食べ終わって立ち上がり、

カップとスプーンをゴミ箱に捨てるとさっきのベンチを振り返った。

 

おっさんはすでに居なかった。若いお姉さんがおっさんの居た場所に座っていてスマホをいじっていた。

 

こういう所から私はお話のネタを拾うよなあ、と思いながら私は買い物を抱えて家に帰る。その途中で乾燥機に入れていた洗濯物を取りに行く。

 

そうして今日も仕事です。

そして今日もお話を書こう。そう思いながら、とりあえずこれを書いています。