小説「雨の日の遠足」 | 文学ing

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森本湧水(モリモトイズミ)の小説ブログです。

なんだよ

ふざけんなよ

マジゆるさねえ

トキタのやろう。

 

とかなんとかぶつぶつ言っている、息子が。カーテンを掴んで。

私はそれを見ながら、お結びを4つむすんで海苔で包むと、お弁当箱に詰めた。隙間は作らない。

チーズの入った卵焼きと丸まったエビフライと、プチトマトとブロッコリーを詰めたら、もういいでしょう、立派にお弁当でしょう、私はよくやったでしょう。と、自分を丸め込む。

 

ふざけんなよ

トキタのやろう

うそつきやがって

 

とかなんとかぶつくさ言い続けている息子に私は声を掛ける

「行くの?行かないの?」

私は息子のリュックの中に、お弁当と昨日買ったお菓子(「200えんまで!」と彼が言った。)

と、敷物とおしぼりの入った筒を入れた。

水筒に温かい麦茶を詰めた。

外は冷ややかな雨が降っている。

「いくよ!」

「私に怒らないでよ。」

息子は朝からぷりぷりしている。起きた時から怒っていて、パンを食べながら怒っていて、今も、友達の家に行く準備をしながら怒っている。

 

「だってトキタは今日ぜったいはれるから今日にしようぜっていったんだっ。」

「時田君だって2週間も先の天気が分かるわけないでしょうが。」

考えないさい。と、言って私は息子を諌めた。ぐるるるるる、と喉を鳴らしている。けだものだ。

 

「クマオと遠足いきたかったなあ…。」

熊井くんというクラスメイトが居て。

時田くんとその他何人かと息子の仲良しなのである。その熊井くんが、遠足の日にインフルエンザにかかって一緒に行けなかった。

息子は熊井くんととても仲良しなので、しばらくしょげていたのだが、そこへ時田くんが

「23日ははれるからクマオとみんなで裏山にえんそく行こうぜ。」

と言い出したそうなのだ。

「クマオと遠足いきたかったなあ…。」

なおもぐずぐずしている。みんなで遊びなれた里山にお弁当もって出かけるところに、あいにくの雨になったのでした。

 

「ほら。いい加減にしなさい。熊井くんちに電話したら、お母さんがみんなで来てくれていいからって言って下さったから。」

と私は息子にリュックをしょわせてその上からレインコートをかぶせて、傘を持たせて玄関から外に出した。

お弁当は、熊井くんの家でみんなでお昼に食べることにしたそうだ。

さっきかく家に連絡を取ったら、皆さんちがそんなふうに言う。

 

「気を付けて行っておいで。熊井くんのご両親にはきちんとごあいさつするのよ。帰る時は電話してね。」

「わかってるよ。」

と、一向にぷりぷりしたまま息子は小寒い雨の中をお弁当を持って出かけて行った。

「クマオと遠足行きたかったなあ…。」

まだぶつぶつ言っているのが玄関先の門をくぐりながら聞こえてくる。よっぽど熊井くんのことがだいすきなんだなあ。と私は思いをはせる。

 

何時ごろだろう。

部屋に籠ってマンガ読んだりゲームしたり。

いつからだろう。

友達の家に一人で遊びに行ったり。おかあさん、おかあさん、と後を付いて回らなくなったのは。

いいことなのだ。そうなのだ。

 

私は自分をまるめこんで、おじゃこの佃煮をまぜこんだお結びの残りご飯を、おしゃもじか

ら直接口に押し込んだ。