小説「駄薔薇」 | 文学ing

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森本湧水(モリモトイズミ)の小説ブログです。

赤いバラ、白いバラ、黄色いバラ、花屋の切り花、そういうバラを、姉は

「駄バラ」

と呼んでいる。そして時々買ってこいと言う。

 

バラには一つ一つ名前が付いているのだそうだ。

と、言うか名前が付くバラになるまでには何百という手間がかかり、何百万という試作品が切り捨てられ、その中で名前が付くものはまさに、天球に一つ、星を求めるような物。

それを知ってから、姉は花屋の切花のバラを

駄薔薇、と呼ぶようになった。

 

「だって腹立つじゃない。」

何に腹を立てているのか知らないが、そんな風に言う。

「充分に手間を懸けて、苦労に苦労を重ねて。それでも、病気に弱かったり色が悪かったりすると切り捨てられる。

それ自体はとてもきれいに咲いているのに。それでも、生産者が駄目だと判断したら、その薔薇は駄目になってしまう。

腹立つじゃない。

そんな、ちょっとした判断で切り捨てられる花がある一方で、こんな名前も付いてないようなしようもないバラが、のうのうと毎日何百本と生産されて、人の目に留まっている。

大してきれいでもない、大して匂いがあるわけでもない、大して色がいいわけでもない。

そんな、どうでもいいようなバラがたくさん生産されている一方で、どんなに綺麗に咲いても、情け容赦なく燃やされていく。

 

私は赦せないのよ。

だからこんな奴ら駄バラよ、駄バラ。」

呪われなさい。

と姉は言う。

何を呪っているのか分からないけど。バラの新品種を作る試みは常に行われているが、その中から銘柄が付いて市場に出回るバラは、言ったように何百万の試作品の中の1輪なのだそうだ。

姉は、どうしてかそのことが気に入らない様だ。

いや、違うね。そういう何百万という花が捨てられている一方で、名前も付いていないような惰性な量産型が出回っていることが、赦せないみたいなのです。

 

「切り捨てられる花の方がどんなにか綺麗なことが。」

そういって、駄バラの存在が気に入らないのです。どうして、花なんかに同情するようになったのかは分からないけど。

 

「呪われないさい。」

と姉は呟く。私が買ってきた名もない黄色いバラに対して。

「誰からも顧みられず、捨てられてしまいなさい。」

あんたよりきれいに咲いていたすべてのバラのために。

そう言って、私の買ってきた花を見ている。

まるで、自分の想い通りに成らなかった人生のあてつけにしているみたいだ。どんなに頑張っても結果は出なかった。

なのに、大して頑張ってもいない奴が結果を出していく。そういうことが赦せない。

だから、花にあてつけをしているのだ。

 

そういう気持ちは分からないでもない。

しかし、駄バラが頑張っていないという証拠。それは。私では判断は出来ないのです。