小説「炊飯器」 | 文学ing

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森本湧水(モリモトイズミ)の小説ブログです。

「月の生活費は送るから。」

「大丈夫。おおやけにはいろんな手当があるから。私でも育てて行けるから。」

児童扶養手当とか片親家庭支援金とかいろいろある。姉はこれから地獄に落ちなくてはならない。

「このこたちまで巻き添えにしたくないのよ。」

6歳の次男と4歳の長女について言った、それはもっともだろう。

「お金の事は大丈夫。私はその方面には明るいから。貧乏にも慣れているし。私を信頼してくれてありがとう。心配ないは。まだ小さいんだもの、糞兄のことなんてすぐ忘れるわ。」

というと、姉は心底疲れた顔をして笑った、この二人の幼子の兄は、15歳で級友をいじめ殺した。自殺なさったということだ。週刊誌がすっぱ抜いた。長男の顔写真も載った。回収は、されなかった。

自殺したその彼は周到な性格だったようで、録音日時の細工が出来ないような音声録音装置を自作して肌身離さず持っていたり、SNSに逐一自分のされたことを記録してから、自ら死なれたそうで、姉の長男は難なく犯罪者になった。

 

親が悪い。

苛めは、親が悪いのである。証拠はたくさん残っていた。教科書にされた落書きの写真も亡くなった彼はSNSに上げていた。

筆跡を知らべたら、姉の長男の癖が見て取れる、姉の長男は死ぬほど字が汚いので、見る人が見たらすぐ分かる。

親が悪い。だけど、兄弟まで悪いのは納得がいかない。と、姉は愛知に住んでいた私の所に自家用車で次男と長女を預けに来たのだった。深夜だった。

 

「私は、これから矢面に立とうと思うのよ。」

「そんなことをしてどうなるの。」

私は姉のために生姜湯を出してやった。11月だった。彼女はこれからよっぴいて島根に帰る。矢面に立つのだ、そう言った。

「あの、バカのやったことのしりぬぐいをするのよ。だから私は矢面に立つ。きっといろん人から悪口を言われるわ。」

「石を投げられるだろうね。」

「お父さんが死んでいて本当に良かった。」

我々の父は、20年前に死んでいる。もし父がまだ生きていたら、矢面に立ったのは間違いなく彼だっただろう。

「お父さんにそんなことはさせられない。」

「そうね、あの人がそんなことをしていたら真っ先に自分が死んでしまうわ。」

孫を愛していただろうから。

「死んでてよかったね。」

「そう。本当に良かった。」

「あんたはこれからどうするのよ。」

次男と長女は突然連れてこられた家の中でしばらくいろんな置物を珍しそうに触って遊んでいたが、年には勝てない様でいつの間にか折り重なって寝ている。私は出版社や映像会社に顧客を持って模型を作る仕事をしている。

「あんたこそどうするの。はっきり言ってめんどくさいわよ。」

と姉は生ぬるい塊になっている小さな2人の事を言った。

「食事は、3回与える。うち一回は給食。風呂には毎日入れる。服は、小さくなったら新しいのを買ってやる。」

姉は安堵のため息をついた。

「そう。それだけやってくれたら充分だわ。」

感謝するわ。

「生半可じゃないわよ。」

「そう。そうね。」

苛めによる自殺はホットでキャッチーだ。しばらくはメディアが離さない。姉は八方位から機関で一斉掃射されるめにあるだろう。

「なんであんたがそこまでするのよ。」

姉のマグカップはすでに乾いていた。小さな二つの肉体はオーブンの中身のような香りを立てている。

私が問うと姉は応えた。

「私以外の親全員への嫌がらせのためよ。すべての親の嫌がらせよ。」

と言って、石みたいに固まって早朝3時の部屋の中で粘っていた、さっき塗った私の接着剤はぼちぼち乾く様子。