小説「深夜の昼間と呪いのこたつ」 | 文学ing

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森本湧水(モリモトイズミ)の小説ブログです。

「ところであなたは誰なんですか。」

と、いい加減僕は尋ねた。もう半年になるか。爺さんのコップに酒を注いでやりながら。一升瓶を手酌するのにも慣れてしまった。

睡眠薬を処方されてから毎晩同じ夢を見る。爺さんがリビングのこたつに一人で入って、昼間ったから酒をくらっている。

肌着に腹巻にはげ頭の爺さんで、リビングはきれいに掃除されている。

「息子夫婦が、家立てたからって呼び寄せたんだが、それは、さあ、結局ふたありとも働いとるだから、おれは家に居ってすることもなし。

こうやって一人で酒くらっとるうちに、死んだだが。」

「なんなんです。」

「だからおれの筋書きだ。」

「筋書?」

「俺はな、お前さんのために拵えらえた、呪いだ。」

と、爺さんはコップ酒をぐびぐびしながら言ったのだった。

「呪い? 僕は呪われているんですか?」

「現に俺が目の前に居るじゃねえか。」

と爺さんは言う。確かに。確かにそうなのだ。半年ほど前から僕は夜眠れなくなった。それじゃ困るから精神科に行って睡眠薬を処方してもらったら、以来毎晩同じ夢を見るのである。

 

綺麗に掃除されたリビングのこたつに、知らない爺さんが一人で座っていて、一升瓶から酒を飲んでいる。

「あんたも呑めや。」

言われるままに僕もこたつに入ってコップに酒を注いでもらう。そして訳もわからないうちに、爺さんのいろんな話を聞きながら酒を飲み続けて、気が付いたら起きる時間になっている。

全く寝た気がしないのだった。

鮮明過ぎる夢だったから。そして今日、爺さんを問い詰めてみたら、なんと呪いだという。

「これが呪いなんですか?」

「現にあんた。眠れてねえじゃねえか。」

そうなのだ。眠って夢は見ている。しかし、意識は全く覚醒しているのと変わらず、朝が来て体を起こす時間になると、一晩起きているのと何も変わらない状況で、僕の神経は、着実に確実に削り取られていた。

 

恐らくは、この爺さんによって。

「誰が僕を呪っているんです。」

「そりゃ、おれには言えね。決まりだからな。」

「決まりがあるんですか。」

「おお、そりゃ、どんな仕事もそうよ。決まりにしたがって動かねえと、家一軒飯一杯立たねえじゃねえか。何事も決まりよ。だから、呪いにも呪いの決まりがあるのよ。おれはそれにしたがって、あんたのとこ寄越されたってわけよ。」

「一体誰が僕を呪っているんです。」

「さあ、そこだよ。」

と言って、爺さんは更に酒をコップに注ごうとしている。手元はもう大分怪しい。

「いい加減飲み過ぎだよ。」

と言うと。

「いいや、これも決まりなんだよ。」

僕は爺さんと一緒にこたつにあたりながら訊く、外はまぶしい日が照る春の陽気だ。

「おれは、酒飲みすぎて死んだって筋書きだからな、酒飲まん事にはやってられんのよ。」

「出来れば、呪われてるのなんか嫌だ。」

僕は言った。

「や、だからそこでね。呪われてる自覚がない、だから呪われるんだ。あんたさん、誰か自分を呪いそうなやつが頭に浮かぶかい?」

「いいや、全く。」

「さ、そこでね。自覚がないから、呪われるんだ。自覚のない奴こそ呪いを被るようなことを平気でやるからね。

もしね、あんたがだれか、自分を呪いそうなやつを重い描いて御覧。

そしてね、だれかあんたを呪っている奴を、見事中てて御覧。おれはすぐさまいなくなるぜ。」

「そういう決まりなのか?」

「ああ、呪っている相手を見つけたら、呪いは其処でおしまいよ。」

と言って、僕は呪われたこたつの中で、明るい深夜にどうしようもない酒を飲むはめになっているのだった。