小説「花を選ぶ、それだけの日」 | 文学ing

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森本湧水(モリモトイズミ)の小説ブログです。

いざとなったらゆみこさんの味方で居てあげたい。だから私は花だけ選んでいるのだ。楽屋花と言うものらしい。

生意気にも姪っ子には楽屋と言うものが用意されている。3歳から通っている大手のピアノ教室だ。このためにドレスまで買わなくてはならないんです。

とゆみこさんは困惑していた。従兄の事は嫌いではない。ただ、いざとなったらこの困惑いっぱいの奥さんの味方でいてあげたいと思っている。

あんな見栄っ張りの男の妻になったんだから付いていくのはさぞ大変だろう。

姪っ子、と言う感覚が強いんだが実際は従兄の娘なので私には又従姉妹にあたる。

従兄の事は嫌いではない。しかし奴のやり口は気に入らない。今日はピアノ教室の発表会の日。
私は見に行かない。意思表示のために。私は花屋に居て、店員さんが切り花をバケツから選んでくれるのを待っている。
それは細かく設えられて、小さなアレンジメントになる予定だ。
出来上がったら私は会場へ持っていって、帰る、それだけの日。意思表示のために。

従兄の事は嫌いではない。しかし奴のやり口は気に入らない。

姪っ子は週に5つ習い事をしている。今日のピアノ教室の他に学習塾と水泳と英会話とバレエを習っている。
月の費用が7万円掛かります、とゆみこさんは困惑している。ゆみこさんは困惑するとよく私に電話を掛けてくるのだ。

従兄はとにかく自分の娘を造り込もうと、そればっかりに力を注ごうとするから気に入らない。

つまり、あの男にとって人とは見た目が全てなのだ。そして見た目というのは、子供と言うのは、粘土みたいに好き勝手造り込めるとそう考えている。

そして悲しいことに子供は賢いので、姪っ子は父親の意図を理解し、今ではすっかり粘土みたいになった。

切り花かなんかと思っているのだ、私は、店員さんが手際よく花を整え出したのを見て、
「いつか何処かでぼっきりいくぞ、」
「はい?」
つい吐いたひとり言を聞かれて慌てた。

「いえ、なんでも。」
切り花みたいに思っているのだ、あの男は自分の娘の事を。
水に生けていれば、自分が水を与え続ければ、ずっとずっと綺麗に咲き続けると思っているのだ。

地面の下には芋虫みたいな根がのたくって何処までも延びていて、貪欲に意地汚く命は生きていくのだと、そう言うことを見ようとしない。

だから私はゆみこさんの味方でいてあげたい。
醜い、芋虫みたいだから切り捨てられた姪っ子の根っこと、常に寄り添っているのは他ならないゆみこさんだから。

いつか姪っ子がぼっきりなるときに、ゆみこさんまでぼっきりならないために、私は今日のピアノ発表会を見ない。

私は切り花の、切り捨てられた根っこの味方である。
その、意思表示のために。