「小学校の教室だったよね。机が高さ調節できるタイプのやつでさ。中学に行ったらあんなのは使わない。」
「後ろに“今月のめあて、整理整頓”て書いてあったよな。」
「それで、先生のネクタイが緑とオレンジのへんなストライプで。」
ビールのグラスを持ったまま立ち話をしていた私たちは、悉く頷いた。
その夢の中で先生の顔は真っ黒に塗りつぶされていたのだ。
大学の同窓会の立食パーティーで、久しぶりにゼミの仲間が集まっているところである。もう10年も前の事だから、みんな見た目も(髪の毛も体の幅も)、生き方もだいぶ変わってしまっている。
そんなことが面白くて話に花が咲いていたら、ふと、一人が
「私、卒論出すぎりぎりで毎日悪夢見てたな。」
と言い出した。すると、
「ああ、俺も毎日同じ悪夢見てた。」
と言い始め、そうしたら集まっていた5人くらいが私も、俺も、と言い出して、
「じゃあどんな夢だった?」
みんな同じを夢を見ていたのだった。
卒論発表会をしている夢で、何故か小学校らしき教室に、先生が一人だけ座っていて、私の他に誰も生徒は居なくて、私は一人、論文の紀要を持って教室に入り、
「お願いします。」
と言って教室の真ん中に座っている一人の先生に頭を下げる。
濃いグレーのスーツを着て、緑とオレンジの変なネクタイを締めた先生に頭を下げて前を向いたら、
先生の顔はマジックで塗りつぶされたように、真っ黒だったのだ。
本当に、黒い油性マジックで出鱈目に塗りつぶしたように、真っ黒だった。マッジク顔にじっと見つめられて論文発表をしなくてはならない。
そんな悪夢。
「ほんとに見てた?」
「うん、未だに覚えている。」
私は、時々ビールのお代わりや料理のお皿を取り換えに行ったりしたんだけど、主にその5人で固まって、卒業する時に見ていた悪夢について話続けていた。
「不思議なこともあるもんだな。」
「みんなで同じ夢を見ていたなんてな。」
と口々に話した。
「で、あの時先生の顔が塗りつぶされてたのってさ、」
ビールでだいぶ酔っぱらっている彼は言った。
「俺たちの将来の展望が無かったってことだったんだろうな。」
私たちは無言で顔を見合わせながら、ビールを飲んで、これ、食べてみる、とサーモンのマリネを回しあった。
確かに将来の展望は無かった。私たちの中で、同じ職場で働き続けている人間は一人としていなかった。
みんな一年くらいで仕事を辞めてしまって、多くはその業務についていけなくて、今無職の人もいるし、結局バイトして食いつないでいる人もいた。
将来の展望は、無かった。これは結果。
「でも、同じ夢見るなんて、俺たち結構仲良かったのかな。」
と酔っぱらっている彼の言葉。
そうなのかな。
ゼミは卒論を書くための場所だったから、それほど仲良くした記憶は無かったんだけど、でも、横たわっている未来のあまりの不鮮明さに
(それはまさにマジックで塗りつぶしたように不鮮明だった)
私たちは身を寄せ合うようにして同じ空間を共有したのかもしれない。それは、けして悪い事ではないはずだ。
良かったらライン登録させて、などと話していたら、悪夢の話題はいつしか誰もしなくなっていた。