小説「ミカンを持ってきました。」 | 文学ing

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森本湧水(モリモトイズミ)の小説ブログです。

何しに来たの?
と不信感丸出しだったので、私は友人に、
「ミカンを持ってきました。」
と言った。

「それはありがとう。」
と友人。
「で。これはなんのミカンなの?」
何が狙いなんだ、と言う意味である。私は手を合わせた。

「こたつで仕事をさせてください。」
「そんなこったろうと思ったわよ。」
と、言いながらも友人はミカンの入ったビニール袋と伴に私を家の中に入れてくれたのだった。アパートの中に。

「いい加減自分でこたつ買いなさいよ。」
「そうしたら部屋が狭くなるじゃない。」
「んなもなわたしだって我慢してんのよ。」
「そりゃ、あんたんちの方が広いから。」
「大して変わんないわよ。」

イラストレーター仲間だ。
私が彼女の部屋に入っていくと、やっぱりこたつの上に紙を広げて、その上に色えんぴつがたくさん散らばっていた。
「今、何書いてるの。」
「雑貨屋さんで売るらしい、トートバッグのデザイン。あんた何すんの?」
私は早速こたつに入り、カバンの中からPCを取り出した。
「それが煮詰まっちゃっててね。」
友人も自分の作業に戻ろうとしている、

「自治体の観光絵葉書頼まれてるんだけど、なかなか採用が降りないのよ。」
「ああ。公庁はめんどくさいからねえ。」

と、話ながら私たちは一時間ほど自分達の仕事を進めたのだった。
一時間。

「さて、じゃあそろそろ行きますか。」
と友人。
「そうだね。」
私も答えてPCをスリープにした。
友人も色えんぴつとスケッチブックを片付けて、さっき私が持った来たミカンをいそいそと取り上げる。

二人で、ミカンを食べた。
「なんでしょうね。」
「全くね。」
ミカンの皮を剥きながら話す。
「魅惑的よね。」
「蠱惑的だよね。」

つまり、私はこたつでミカンを食べたくて、友人の家までやってきたのだった。
引き寄せられるように。
「醍醐味よね、」
「堪らんよね。」
と話、ミカンを二つずつ食べて、私たちはまた仕事を始める。