長編お話「普遍的なアリス」の7 | 文学ing

文学ing

森本湧水(モリモトイズミ)の小説ブログです。

そういえばこないだ、お母さんともめていたな、と思い起こす、ソウスケ。お母さんと言うのは私の、じゃなくてソウスケの母親の事だ。

信行の部屋は8畳のワンKで、冗談みたいなキッチンが一応付いている。ガスコンロは一つしかないので私はいつもご飯を作るのに苦労するのだ。

さっき一緒に食べたから揚げと、ツナとレタスのチャーハンの匂いが、まだ私たちを取り囲んでいる。

私はこんな風に、匂いが逃げ場を無くして途方に暮れているような、信行の部屋が好きだった。信行の左肩に顔を預けたら、髪を撫でてくれた。そして、

「疲れた。」

と言った。ベッドの上で。

「…なさけないひと。」

「そういうことは思っていても言わない方がいいんだから覚えておくといい。」

と言って抱き寄せられた。そして、ふー、と深くため息をつく。

「今日は練習で腹いせされたからなんだよ。」

と愚痴のようなことを言うのだった。

 

私は、信行の部屋に来るようになって、人の肉体とはこんなに気持ちのいいものだったのかと感動した。その位、信行の体は、快適だった。

お湯につかっているような気分にさせてくれる。信行はスポーツマンだから無駄な筋肉も皮下脂肪も付いていない。使い込まれた、でも酷使はしていない、文句ない健康な肉体をしている。

そして私は信行に触れられながら、昨日電話で母親ともめていたソウスケのことを考えていた。

 

「どんな腹いせされたの?」

私は体を横向きに寝なおして、私の髪の毛をすくってみている信行に訊いた。

「部長の先輩の機嫌悪いんだよ。あの人はそういう事がある。」

「そういうこと?」

「腹立ってる時に誰か捕まえてハブろうとするんだよ。今日は俺がそれ。お前はスタミナねえんだから独りで外周10周するまで帰ってくんなってよ。」

「それって何キロ?」

「外周は一周2キロだから、20キロくらい走ったことになるかな。」

「なにそれ!? すごい」

私は思わず身を起こした。動くな、寒い、と言ってすぐに信行に肩を抑えられてまだ彼の体に連れ戻された。

確かに私もあらわになっている胸元が寒い。遠慮なくすがりつく。

「それだけ走ったらそれは疲れるよね。信行。」

「何。」

「ごめんなさい。」

「はい、よく言えました。」

と言って額を撫でられた。こういう瞬間が、私はとても好きだ。信行の指は普段ホッケーのスティックを握っているから皮が厚くなって、固い。私はそういうとこも好きだ。

 

そして電話で母親ともめていたソウスケの事を想っていた。母親が電話をかけてくるようになってから、ソウスケは固定電話を解約した。

というか、梓さんの主導で解約されたのだった。でもソウスケの母親は研究室に問い合わせて強引にソウスケの携帯電話の番号を聞き取ったのだった。

やとろうと思えば、どんな情報でも手に入ってしまうから怖いよね、なんて話を、出来もしない相手に、私は今、大切に扱われている。