「つまりお父さんは被害者だったってこと。」
ロサンゼルス国際空港で、南米行きの飛行機のキャンセル待ちをしている時に、彼に出会った。上手い日本語を話した。彼と、他の八人の兄妹たちと一緒に日本に行くのだと言う。
僕はアメリカにはすっかり飽きていた。辟易していたと言うべきか。場所を変えたって同じことかもしれない。
でも取り合えず違う土地に行きたかったのだ。南に向かうことしにた。カウンターの職員に、何処でもいいから南米の国のキャンセルが出たら、こっちに回してくれ。
と、その意図を告げようと四苦八苦していたときに、彼が横から英語で訳を相手に伝えてくれたのである。
僕はお礼にカウンターで飲み物でもおごるよ、と彼に申し出た。澄んだ目の色と濃い髪の色を持った何処と無くアンバランスな少年だった。
いいよ。
と彼は言った。
「僕以外に八人居るんだぜ。」
そんなにおごらせられないや。と彼は言ったのだった。
「日本語が上手いね。」
さっきはありがとう、と僕が英語で伝えると、
「僕のお祖父さんとお祖母さんは日本人だから。」
と彼は答えた。
「僕たちの中でお母さんがオリエンタルなのは僕だけなんだ。」
「どういうこと?」
と僕が尋ねたら、
「つまりお父さんは被害者だったってこと。」
と彼は言ったのだった。
「結局僕たち、僕たちってお父さんと兄貴たちなんだけど、モニカオバさんの都合に振り回されただけなんだ。」
参っちゃうよ、ほんと。と彼は言う。
モニカオバさんと、言ったがその女性は彼の法律上の母親で、彼の父親のただひとりの正式な妻なのだそうだ。
つまり、そのモニカと言う女性は一夫多妻を義務化する宗教のかなり強烈なフリークスで、自分は絶対に夫に他の女を宛がわなくてはならないと言う強い信念を持っていたのだと言う。
「でも州法は復婚を認めてないからね、モニカオバさん以外はみんな事実婚てやつさ。」
日本語で、そう言うんだろ。と彼は言う。
「モニカオバさん以外のその、おかあさんと言うのかな。お父さんについてもめないのかい。」
と僕は尋ねた。彼は首をふった。
「僕のママも含めてみんなモニカオバさんのファンなんだ。モニカオバさんがこうしろって言ったらなんだってするよ。フジヤマの雪でミートソースを作れって言われたって、きっとそうするよ。
だからみんなモニカオバさん言われるままにのこのこやって来ちゃったってわけ。
まあ反論出来ないお父さんも情けないとは思うけどさ。」
「それで君たちはどうしたんだい。」
と訊くと、
「ニッポンに行くんだ。みんなで家出してきたんだよ。
いや、兄貴たちはもう大人だから自立って言うべきかな。でも妹はまだ小学生だからね。
取り合えず僕のお爺さんとお祖母さんに会って、ニッポンで皆で暮らせるようにたすけてもらうつもりなんだ。」
早口のフランス語のアナウンスが聞こえた。何て言ってるか分からないな、多分フランス語だと思う。
「何故家出してきたんだい。」
「オバさん達が先に家を出たんだ。」
こう言うことがあったらしい。
モニカオバさんと彼の母親(日本出身)を含めた三人の女性たちは彼の父親を夫として円満(円満なもんか、と彼は言いたげだ。)に暮らしていた。
だが其処へ父親が新しい女の人を連れてきて、「彼女も家族に加えてほしい」と言った。彼らの父親は真剣な恋におちたのだ。
妻たちは激怒して反対した。
私達が居るのに愛人なんか作るなんて!と言って激怒した。
「バカバカしいだろ?」
彼は肩をすくめて見せる。アメリカのガキは子供かと思うと大人で、大人びていると思うとガキで、なんだか訳が分からないな。
「何が愛人だよ。自分達みんな愛人のくせしてさ。
僕の家は結局、
モニカオバさんが自分好みの夢の国を作りたかっただけなんだ。
」
「でもモニカオバさんはウォルト・ディズニーでは無かった。」
彼は笑った。
「そう!情熱の致命的な欠落!ウォルト・ディズニーでは無かったね。
オバさんは自分の仲良しこよしだけで自分中心のコミュニティーを作りたかったんだ。僕たちはまんまとそれに付き合わされたんだ。いい迷惑だよ。」
そして激怒した妻たちは家を出ていき、兄妹たちは話し合いの末異国の地に新たな可能性を求めることにした。
父親は新しい恋人と平穏な暮らしを、していると思う、と彼は言う。
「この結果、悪くないって僕は思うんだ。」
僕と彼は空港のロビーでそんな話をしていたんだけど、やがて遠くから恐らく彼のことを呼ぶ声がしてきた。
彼は片手を挙げて応える。
「搭乗時間だ。じゃあね、たのしかったよ、ジャパニ。」
と彼は僕の肩に軽くパンチした。僕も彼に
「godblaceyou.」
と言った。彼は笑って、
「神は死んだよ。」
と言った。