「大急ぎで生まれてきたような気がするのよ。」
と私は言った。彼は何時ものように、雑誌に目を投じたままへえ、と言って、それだけだった。
そんな、反応しかしない人なのだった。私の彼は。
無反応な人。しゃべらないし笑わない。でもとても綺麗な人。
はじめて会ったときにこんなに快適な体は他に存在しないだろう。私は確信した。
だから大急ぎで生まれた来たと思うのよ。と私は訴える。
「このタイミングを逃したらこんなに好きになれる人に出会えるわけがないと、きっと確信していたのよ。」
だからあんなに出鱈目な親を選んで生まれてきたのね。
「あんなに出鱈目な親を選んででも、生まれて来たかったのよ。
だって、そうしないと会えないじゃないか。あなたに。」
も私は彼に訴えた。
「全く理解できません。」
と彼は株式の雑誌を読みながらそう言ったのだった。
彼の肉体は快適だ。
寸分の狂いもなく私のために鋳造されている。少なくとも、私はそう感じている。直観に理屈で楯突いたって無駄だ。
そうとしか言えないんだもの。
「あなたは特注品よ。
私のためだけのね。」
と言うと、へえ、と言ってなおも無反応だった。私は彼の隣にぴったりとくっついていて、快適だった。
なんていい雰囲気をしている人なんだろう。と思っていた。横に寝転んでいるのなんて最高じゃないか。
大急ぎで生まれてきて良かった。あんな親の腹の中にでももぐりこんで良かった。
こうして出会えたもの。危なかった。ほんの少しでもタイミングがずれていたら、私は自分がどうなっていたか分からない。
良かった。同じ時間の流の上に落ちてこれて良かった。私は思う。
私の人生にはいいことはあんまりない。彼と同じタイミングで生まれてくるためには、そのくらいのペイが必要だったんだろう。私はそんなふうに考えている。