小説「アラソイ」 | 文学ing

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森本湧水(モリモトイズミ)の小説ブログです。

見るまでもなく窓の外では風に煽られた木の葉が互いに無意味ないさかいを繰り広げるように、その、微細な神経質な叫びを止めない。
嵐の夜なんである。木の枝が煽られてぶんぶんしなっている気配が何時まで経っても止まらない。今夜一晩は荒れるだろうが、
果して明日の朝が来るのだろうか。
そんな、曰く絶望すら感じさせる大嵐の夜に、

隣部屋のギタリストは負けん気でも起こしたみたいにギュインギュインやっている、下の階に住んでいるおっさんが十分置きに怒鳴りこんで来ていて、

そのドアをがっつんがっつん叩くリズムとギターの弦をギュンギュン引っ張る勢いが、
まるで示し会わせた演奏会見たいに聞こえる。
其処へ鳴りやまない嵐が合いの手を入れてくる。

隣部屋のギタリストは何だと言って音も消さずにギターを奏で続けているのだろうか。

この嵐の、空気が引き裂かれる音に紛れてなら、いつも我慢している自分の音に、精一杯語らせることが出きる。

そんな事を考えたのかもしれない。
考えたのかもしれないのだとしたら、とんだ浅はかと言う奴だ、現に下の階のおっさんが十分置きにやって来てはドアをがんがんやって
うるせえぞ、

とこちらもすんごいうるせえ声を上げている。第三者からみたらどっちもどっちなのだ。
うるさい。

嵐の音がうるさい、ギターがうるさい
おっさんの声がうるさい。何もかもがうるさい。そして諸悪の根源のような空気の掠れが、
窓の外を這いずり回っている気配こそ、いっかな止む気配もない。

この嵐の夜に。
わけを理解出来ないあらそいが隣の空間でいつ果てるとも知れず続いている。

お、どうやらおっさんに加勢に来たもう一人がいるらしい。
あんたねえ近所の迷惑考えなさいよ、と至極当然な文句が聞こえてくる、聞こえてくるけと掻き消される、窓の外の空気の唸りに。

隣の廊下はどんどん騒がしく成っていく。

隣部屋のギタリストはその心に何を思うか、どんなにドアを叩かれても自分の弦を弾くと言う行いを絶対に止めない。その心に何がある?

嵐が空気を軋ませる音と、弦が空気を震わせる声と、ドアをがんがんやって空気を脅かす気配が、
いつ果てるともなく争っているこの夜半。

私は早く終わらないかなあと思いながらカップラーメンを作るためにヤカンを火に掛けた。