小説「樹木の王」 | 文学ing

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森本湧水(モリモトイズミ)の小説ブログです。

森には必ず樹木の王が一本あって、それは常人の眼には見えないんだけどマチガッテ遭遇すると取り返しのつかないことになるのだそうだ。

だから私たちガキンチョは、仲間だけで森に入ったのがばれるとじいさん衆にこっぴどく叱られた。

「わっぱだけで、ひゃあられんちていようろうが!」

と言ってこっぴどく叱られたものだった。樹木の王に遇ったらどうふるね!と言って叱られた。
樹木の王は、集落の大人たちに非道く恐れられていた。

 

私がそんな子供時代に感じていたのは、天神様が天の怒りだったら樹木の王は地の怒りなんである。

森や山を大事にして丁寧に扱っているうちは何も問題は無いんだけど、ふとしたはずみで誰かが、そうね、ゴミを不当に捨てるとか、必要のない木を切り倒したりするとかすると、

その人のところに樹木の王が現れる。

樹木の王は目に見えない。でも

 

見る必要のある人間の目にはしっかりと見える。非常に恐ろしい姿をしているのだそうだ。樹木の王に遭った人はしばらくまともな生活が出来なくなって、最近では三軒隣に住んでいるおじさんがそのことをすっかり忘れて家のごみを裏山に撒いてしまったから、

病院に運ばれたまままだ帰ってこない。

 

私は、樹木の王はなぜそんなにも私たち集落の人間に干渉してくるのだろうかと考えている。寂しいのだろうか。

私にとっては森も山も子供のころから変わらず、

ただそこにあるための存在だ。それ以上のものではない。私がそんなことを考えているから、樹木の王は寂しいのだろうかと私は考えている。

 

だって私は会っているもの、

樹木の王に、

毎日。

 

樹木の王は今私の家の隣に立っていて、私を毎日監視しているような、見守っているような。とにかく私のすぐそばでいつも私のことを見ている。

そしてどいうわけか私は樹木の王に遭遇してもそれまで通りの生活を送っている。こないだごみ捨てに失敗したおじさんなんていったいどんな目にあったといのだろうか。分からない。しかし私はこうして今日も樹木の王に見つめられながら、朝ご飯を食べて出勤の準備をしている。

 

あなたは寂しいのか。暇なのか。

と思ってしまう。だから私のそばからそんなにも離れようとしないのか。だからって私はあなたにしてあげられることは何もないよ。

 

あなたはただそこに居るだけの存在なのだから。森に生える樹木なのだから。

 

と私は今日も樹木の王に語りかけている。

樹木の王はあるかなきかの真っ黒な目で物言わず私のことをじっと見つめている。