遠く、遠い所まで行きなさい、と思って、
ハルカ
と言う名前をつけた。男の子の名前ではない、と身内からすこぶる評判が悪かったが、
ハルカトオクマデイキナサイ
と言う私の願いは、産んだ時の真正の本音だった。
ハルカトオクマデイキナサイ。
私は、今も私の肩に額をすり付けすりつけしながら寝られないでぐずっている彼に、
どうか遠く遠く、私の手の届かない場所へ、及びも付かないような異界へ、この世の果てまで、
行きなさい、私を離れて行きなさい。
そう願っている。そう願って止まない。どうか遠くへ。遠くへ行きなさい。
私がそう願うのは、
“生まれた場所が無くなっても生きていく力を得よ”
と思うからだ。
私たちは、私は、
同級生を苛めぬいて学校から追い出した。彼はいつの間にか学校から居なくなっていて、
彼が居なくなった事に気付いた私たちは、私は、それが面白くって腹抱えて笑ったのだった。
だからこそ、生きる力を獲てほしいと思うのだ。私が言うような事ではないかもしれない。
だが私は自分の足下から永遠に向かって進延する加害者の事実を我が身の影として切り離せずに過ごしてきた。
この影を切り落としたくば、くるぶしから先を外科的に取り除くしか無いだろう。そんな風に生きてきた。
だからこそ。
遠く遠くへ行きなさい、彼に対して私は願う。
命を獲られる場所まで逃げなさい。私は願う。自分がして来たことだからよく分かる。
遠く遠くへ行って其処で生きられる命を獲なさい。でなければ殺されてしまうだろう。此処はそう言う場所だ。
私の肩に額をすり付けて、彼は寝付けないでごねている。