灯りを点けない部屋の窓から見える空が青い夜八時は、
世界が明るかった。あの頃。
私は、まだ外は明るい、と思ってあなたにあいに電車に乗りにいった。
あの頃あなたは快速を使っても一時間かかる場所に住んでいたんだけど、
まだ外が明るい、
まだあいにいける、
そう思うと私は歯止めが聞かなくてバッグに携帯と財布だけ詰めて駅に急いでしまうのだ。
夏の、日が沈んでもまだ青い空の夜八時。
私は駅に入ってきた電車にすきっぷしたくなる気分で、乗り込む。
私の廻りにはあなたにあいにいくと言う一メートル四方の現実だけがあって、その現実が側に居てくれる限り私は狂いなく幸福だった。
これからあなたにあいにいく。
私は座席の下をとんとん踵で拍子を取りながら動く電車の窓の外を見ている。
ああ、まだ空が明るい、なんてうれしい
そう、思っていた。何故かその時の私は、まだ明るいうちならあなたにあいにいけると思っていた。
暗くなってからでは外に出られないと思っていたからかも知れない。
私は電車の中で遠足に行く子供のようにノリノリで、
文庫本を読もうとか、そんな事をして時間を潰す気持ちにちっともならない。
ただ、この電車が私をあなたにあいにいかせてくれる、
そう思うことが楽しくて、楽しくて仕方なかった。
あなたの家につく頃にはもうあなたの家の廻りは真っ暗になっているだろう。そしてあなたはまた呆れることだろう。
でも空の明るい夜八時の夏、私の世界は明るかった。
明るい光に充ちているのだった。
今、私は灯りを点けない部屋の窓からまだ暮れきらない空を見上げている。
私の心は、未だにあの電車の中でころころと揺れているのだろう。