小説「わたしたちは白血球みたいに」 | 文学ing

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森本湧水(モリモトイズミ)の小説ブログです。

そんなふうに私を見るな、私が一番悪い、みたいな顔して私を見るな。
吉野ちゃんならなんとかしてくれると思ってたのに、なんて、そんなこと言われても、知らないようなこと言うな、まるで言っているみたいな顔して私を見るな。

貴女がもっとうまくやらなくちゃいけなかったのに、こんな退社する日の最後のぎりぎりになって、
花束握りしめて泣いたりするな。貴女がもっと周りとうまくやっとけば良かったことなのに、私たちが悪いみたいな顔をするな、私が一番悪いみたいな顔して見ないで。

吉野ちゃんだけはこんなことしないと思ってたのに、みたいなそんなこと言ってるような目で睨まれたって知らないよ。
知らないから、唇噛みながらだらだら泣いてないで早く帰りなよ。私たちは白血球みたいになって貴女を駆除しただけなんだから。

例えば槙野さんがお昼にたまご焼きが好きなんです、と言ったときに間髪入れず
「あたしたまご焼きって大嫌い、だってあたしの嫌いなヤツがたまご焼き好きなんだもん。」
なんて言わなかったら良かったんだ、そんな目で槙野さんを見ないで。傷ついたのは槙野さんの方なんだから。

例えばみのちゃんが白いスマホにピンク色のケースかけたら、カマボコにしか見えなくなった、って笑いころげてるときに
「あたしね、万年筆で便箋に手紙書くのがとっても好きなの、ねえねえ。」
なんてみのちゃんを文房具やに無理矢理誘ったりしなきゃ良かったんだよ。みのちゃん、新しいスマホの話してたのに困ってたじゃない。

例えば、咲ちゃんが保管庫のかぎうっかり無くしちゃって、しかも誰が最後に鍵使ったか分からなくて、探そうにも鍵の探し場所が分からなかったときに、
「盗難かもしれません。保管庫の鍵が無くなったって、警察に届けた方がいいですよ。大事なものがいっぱい入ってるのに。」
なんて大袈裟に蒸し返さなかったら良かったのよ。お掛けで咲ちゃんが後から余計怒られて、泣いてたんだから。

私たちは白血球みたいになって私たちの組織を守らなくちゃいけなかったの。
だからそんな目をして私を見るな。私に関して一番責任がある、みたいなそんなこと言われてもどうしようもない、そんなこと言っているような目で私を見るな。

私は組織を守るために正常に動く、免疫細胞。

貴女が私たちの体内に毒気を撒き散らすから、私は免疫になって貴方を体の外に出すしかなかったのだから。