長編お話「雨の国、王妃の不倫」の23 | 文学ing

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森本湧水(モリモトイズミ)の小説ブログです。

直井くんが姿を消した。私はその事にどうしようもなく取り乱した。私が直井くんのなんだと、言うのだ。

何者でもない。だからこそ私は取り乱した。

直井くんが私の家に来なくなった。直井くんはバイト先にも来なくなった。
ネットスーパーの、注文書をもとに荷物を集めて段ボールに摘めるバイトに、来なくなったのだ。私はそれとなく、気になったので主任さんに聞いてみた。
「直井くんどうして最近シフトに入ってないんですか?」
主任さんはこともなく言った。

「直井? 彼なら大分前に辞めていったよ。」
え。

そんな筈ない、バイトは直井くんのセイメイセンだ。いくら公園生活をしていて、いくら友達を頼って生活しているからと言って。
直井くんがバイトを辞める筈がない。そんなことをしたら一番困るのは彼なのだから。
「それって本当になんですか。」
私は主任さんに聞いた。

「ほんとも何も来てないでしょう。来ないやつは、辞めたんだよ。」
主任さんは冷たく言う。
障害者職業支援施設から話を回されるのは彼なのだ。
就職活動しては簡単に辞めていく人達を、あまりにたくさん見てきたひとなのだ。

「と言うわけで、この注文書よろしく。」
と私は5枚くらい一度に渡された。

私は完全に冷静さを失っていた。直井はきえた?
どこに?
今かれがどんな所に消えられる?
既に現実から半分消えかかってしまっているのに。だめだ。

彼の存在を消してしまってはダメだ。彼は存在しなければならない。
でも直井くんが何処に言ったのか私はさっぱりわからない。彼の友達の連絡先も、私は何一つしらないのだ。

直井くん。
一体何処に行ってしまったの。だめた。あなたみたいな人こそ現実から消えてしまってはだめだ。

私はパニックを起こしていた。直井くんは私の日常にパニックを起こせる人間だったのだ。

そのことに、
私はもっとも狼狽えていたのだった。