小説「一握りの、」 | 文学ing

文学ing

森本湧水(モリモトイズミ)の小説ブログです。

従兄弟たちはみんな私より随分年上で。高校生の時には中年の域に差し掛かっていた。
でも高校生だったから覚えている。

「あなたが血でも腎臓でも売ったらいいだけの話じゃないですか。

私は嫌です、絶対に嫌です。

生きていくこの子達に使うためのお金です。

何で死んだ人のために。」
と言って、伯父の通夜の時にある従兄弟の奥さんが断固として抵抗したのだ。
私は葬儀の費用を払わない! 代わりにあんたが血でも臓物でも売れ!
そう言って、断固譲らなかったのだ。何て、人だろうと思った。

しかし今なら私も家族を持つ身だから分かる。分かるのは、優先順位と言うことを。

あの従兄弟の奥さんはそれから程なくして離婚して、籍を抜いていかれた。怒りは感じない。
あの伯父と伯母に散々痛め付けられたのは私も知っていた。

血でも腎臓でも、あんたが売れ!

私だって今なら同じことを言うだろう。死体なら、燃やすだけだ。

子供たちは、生きていくのだ。優先順位を過ってはならない。
今なら私も子供たちを生かさなければならないと思う。だからその為に軽んじる命も出てくるのだ。

私も変わったな。いい風にも変わった。もちろん、悪い風にも変わった。

だがどうしても守らなくては成らないものも出来た。無論、非難されるべき志向だけど仕方ない。

子供たちが生きるためのお金を使うくらいなら、

血でも臓物でも幾らでも売る、命ってそう言う物
だと思う。