長編お話「雨の国、王妃の不倫」の19 | 文学ing

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森本湧水(モリモトイズミ)の小説ブログです。

“なんとも、お申し開きすることは御座いません。”

と、
榮妃は皇后と太后の糾弾にがんとして口を割らなかったのだそうだ。

皇后はなんとしても榮妃の口から他の男と通じていると言わせたかったのだろう。
文を押さえたとは言ってもただの散らしかきであることは確かだったのだから。

でも榮妃はけして自分から何も言おうとはしなかった。
蓮がなんなのか、けして言おうとはしなかったのである。

その事が気になって結局は榮妃の首を締めた。
榮妃は何にも悪くないのに。榮妃は、ただ会いたい人が居たというだけで、国主である皇帝に背いた罪をきせられたのだった。

私は榮妃の不幸な人世を思った。

「取り乱したりして、申し訳なかったっす。」
心身が疲弊仕切っていたらしい直井くんは食べるものを食べてしまうと一人で布団のある部屋に行き、ばったりと倒れた。
寝ちゃうつもりなんだろうと思って私は何も言わなかった。

私の部屋は1LDKで玄関すぐにダイニングキッチンがあり、奥が六畳の洋室になっている。突きあたりの壁に添ってソファーベッドを置いていて、直井くんはいつもその下の床に、適当なブランケットを敷いただけで寝てしまうのだ。

だから私は寝ている直井くんを跨いで、自分が眠るソファーベッドまでたどりつかなくてはならない。

ベッドの向う側には窓がある。窓からは雨の気配が闖入してきている。
サッシを叩いて、中に入れろと騒いでいる雨。

大丈夫、いまこの部屋の中には雨がしっかり降っているから、今更君たちが入ってくるまでもないから。

本当に最近雨ばかりだ。喜んでいる田んぼの苗の伸びる音が聞こえてきそう。
私は直井くんを邪魔しないように、そおっと部屋の鍵とこぜにいれを持って傘を手に部屋から出ていった。

カンコーヒーを買おうと思って。
太りたくないから成るべく食べないことにしているのだ。私の主食はブラックコーヒーだ。
でも年々私は太っていく。逆らえない流れにサカラワナイデいるうちに、だんだんだんだん太っていった。

傘を指すとあっという間に柵に覆われるみたいに雨がばたばた頭の上に落ちてきた。

私は盛大に足元を濡らしながら、
榮妃と同じ時代に生きていたら私も牢に入れられただろうかと思案した。

否。
私はもう入っている、雨と言う理由で牢の中に入っている。私の雨は、涙の雨だ。

この涙が私を捕らえてけして外に出そうとしない。私は雨の中を歩く。

私が願うもっと悪いこと、それはこの雨の中から出ていくことだ。
雨の檻の外に出ていったら、今のような生活は必ず出来なくなる。

それが。
それがわかっていても。私はあなたのためにここから外に出ていきたいのです。

久しぶりに夫の事を思い出したら思いがけずまなじりが濡れてしまった。