小説「天文学者のコーヒー店」 | 文学ing

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森本湧水(モリモトイズミ)の小説ブログです。

「現実主義お断り」
と言う看板が小さく掲げられている。

戦後都会のレストランにはよく、“犬と朝鮮人オコトワリ”と言う看板が掛かっていたそうだがこれは単なる笑えない嫌がらせだと僕は思っている。
笑えない。低能な嫌がらせだ。

でもその店の看板は意味が全く違っていた。

「現実主義者お断り。」
本当に断られる訳ではない。普通に、誰でも来店してコーヒーを楽しめる場所だ。ただ店長が夢想家が好きでつい蒐集したくなると言うくせがあるのである。

天文学者。夢想家。もとは同じ意味なのだそうだ。星を見上げているひと。遠いところばかりを見ている人。現実が見えていない人。夢想家。天文学者。

どうして僕たちは現実から目を背けて仕舞うんだろうと、考えながらテーブル席で一人コーヒーを飲んでいる。非現実に思いを馳せながらコーヒーを飲む。淡い湯気まで非現実の薫りがする。

どうして店長は夢想家を応援したくなるのだろうか。現実から抜け出したがっている、非、現実的な僕たちを。
「非現実ももう一つの現実ということにかわりないからさ。」
と店長が前に言っていた。見事に剥げた頭髪が目印の、この店の名物店長は。

「非現実が見えていると言うことは、逆に現実が見えていると言うことさ。
非現実が見えていないと言うことは、逆に現実が見えていないと言うことはということさ。

夢想家だけが世界を語る視覚を持っているんだ。私はその目を通した現実を蒐集したい。
夢想家こそが現実の核心に迫っているのだから。」

と店長は話す。
非現実=もうひとつの現実。
問題はどちらの現実をより重用するのか、と言う、それが本当に課題なんである。