小説「音楽が私たちを隔てている」 | 文学ing

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森本湧水(モリモトイズミ)の小説ブログです。

音楽は選ばれた人間の持ちものだ。

なんだってそうかもしれないけど、音楽は特にそれにそぐわない者の存在を拒む。
否、
いっそ嫌悪する。私は音楽に嫌悪されているグループの人間。だから私とあの人の間には壁がある。

あの人は音楽に選ばれた人間だ。音を聞いていれば分かる。あの人は音を乗りこなしている。音と、自分との距離感をちゃんと理解している人が出す音だ。

だから私はあの人から隔たっているのだ。私は自分と音の距離感が分からないのだから。私は音楽に選ばれていないから。

一度、
私はそれが嫌で嫌で仕方がなくてもうめちゃくちゃに何がどうでもよくなって、音符の群れを叩き壊してやりたくなって、

てんででたらめに弾いてみたことがあった、音楽が私を拒むなら私の方からそのけったくそわるい音を台無しにしてやりたかったのだ。胸くその悪い、弾いてもひいてもちっとも言うことを聞かない音楽を。

めちゃくちゃにしてやりたかったのだ

私は泥酔して楽曲に向かった。スコアをびりびりにするつもりでその曲を弾いた。

何も変わらなかった。いつもの私のぼんやりとした音楽だった。音楽でしかなかった。

私と、あの人を比較したらこんなに隔たっている。同じように音を奏でたいと思っているのにどうしてこんなに違いが顕れてしまうのか。
私たちの間はくっきりとしすぎた壁がある。こんなにも明察な。
だから私はあの人を憎んでいる。

音楽じゃなくて、あの人を憎んでいる、ちくしょう。