「まあ皆、いろんな経緯はあったんだが君と会ってみたかっていうのは共通してると思うんだよね。」
岡村くんがウーロンハイを飲みながら言った。この女が手を伸ばしかけたのをすかさず邪魔したのである。
「そもそもいけなかったのは俺が君の誘いにほいほい付いていってしまったからなんだ。
実際問題不思議な人だよ、君は。凄く魅力的なんだけどさ、
魅力しかないんだよな。
それ以上の事があると思えない。そりゃプロなんだから当たり前かもしれんがな。
しかしプロだってもうちょっと先に進めるかもしれないと思える時もあるだろう。それが無かったんだよな。
だから俺も坂岡も君から何か、何か掠め取っているような気分になってしかたなかった。
思ったんだが君とは人間関係を結べる余地がないと感じるんだ。昔は同じ場所で勉強してた筈なんだけどな。
いや、違う。
そんな過去はありゃしないんだよな。
君は最初から今の君で、だから俺たちは今日初めて君に会ったんだ。そんな気がしてならないや。」
岡村くんが言った。
「岡村、ちょっと言い過ぎなんじゃないのか。
みんな彼女に対してへんなことばっかり言うなあり」
と、言ったのはヤッちゃん。
「康人は後から付いていってないからわかんねえんだよ。」
と岡村くんが言った。
「じゃあ宗田さんはどうするんだよ。」
「宗田はあれだよ、あれ、ぶっ飛んでるから。」
と言う失礼な事を。
「とにかくさ。僕たちが彼女に会いたいなと思ったのは、こんな、夜の仕事なんて止めて欲しいと思ったからじゃないか。
それを皆して肯定的になってるのはちょっとおかしいんじゃないの。」
「康人はこんな言い方してるけど、君のやることに関しては別に異論ないのだと俺は思うよ。」
「岡村。」
人の意見を勝手に代弁した気になるなよな。
とヤッちゃんがちょっとむっとして言った。
「じゃあ康人はどう思うんだよ。自分で何か言えることがあるか?」
「僕か? 僕はみんなから彼女の話を聞いていて、単純に会ってみたいと思ったんだよ。
やっていることの問題はまた置いておくとしてさ。単純に疑問だったんだ。なんでこんなに自分が彼女の事を忘れているのか。
でも今日分かった。彼女は僕たちの記憶の中に最初から居なかったんだよね。岡村。お前の言う通りかもしれない。」
とヤッちゃんが言った。
「僕たちは今夜初めて会ったのかもしれない。」
無数の傷跡。陰惨な過去のプリンティング。
それだけが、それこそが、現実の壁の向う側に存在していた筈のこの女に、
クセスするための唯一無二のキーだったのだ。
小川ユカリと言う中学生は私たちの現実、上履きと体操服と水着と、机と下駄箱とテスト用紙と、えんぴつと体育祭と合唱コンクールと、生徒会選挙といくらかのいさかいや和解。
そういうことの向う側に居たのだ。
私達が小川ユカリを認識するとき、そこには火傷や打撲の跡だけがあった。私達今現実の薄い境界線に反映している淡い傷跡と伴に居る。
だから今日の飲み会は今日でしかない。次の機会はないのだ。今日がこの女にアクセス出来る最期の日。
私はそう考えていた。