「これは見事だね。」
間崎さんは息を飲む。
「これが?」
「そうだよ。」
私の問い掛けに答えてくれた。
「こちらが君の父上。産土の担い手。要衝を守った樹木の神。クグノチ。」
「これが木? これが皆?」
私は何も考えられなかった。初めて会ったおとうさん。何も言ってくれない。黙ったままただそこにある。ずっとここにいたのだという。
それは水晶の柱だった。
「間崎さん、これが本当に樹木なんですか?」
水晶の群生体だった。巨大な六角形の尖った柱が群れて天を目指し地面から伸びている。
樹木というにはあまりにも懸け離れた姿。澄んだ結晶には青い空気が映えてまるでこの鉱石が青く呼吸をしているようだった。青く鈍く煌めいていた。とてもきれいだ、と思った。
「元は通常の木の姿だっただろうけどね。永く産土の影響を受けているうちに神格を得てこの姿になったんだ。」
土地神は色々と見てきたがここまで見事なものは滅多にない。と、間崎さんはほう、と息をはいた。
「おとうさん。」
私は声をかけた、何も変わらなかった。
「話してくれないんですね。」
「この土地神にはもう言葉が無い。」
間崎さんが教えてくれる。
「永いお役目に心底疲弊していらっしゃるんだよ。もうぎりぎり意識を保っているだけの存在だ。先代狗賓の功績だな。本当に見事だ。」
間崎さんは感じ入るように、もう少しの間だけ、私のおとうさんを見ていた、何も言ってくれない、最期まで、言葉も交わせない私の原点を。
三郎彦くん、始めようか。
と間崎さんは羽羽木を両手に構える、
「ヒオリさん。護身は大丈夫かな。」
と言われた、私は慌てて両手を握りしめる。
「はい。」分かった。と間崎さんは言う。ちょっと見たこともないことするけど、驚かないでね。
「私は器使、名を間崎忠正、
奇しく 妙なる 御玉の冬に
慎み敬いて願いあげ奉る言の葉は
我を加護せよ、」
鐘を鳴らすような声で間崎さんは囁き、布袋から羽羽木を取り出した。
全体に蛇が絡み付いている模様の彫られた白木の杖だった。
「仕事だ、羽羽木、起きろ、その名を呼ぼう、
顕蛇祇。」
アレハバキ、
と間崎さんは叫んだ。