それから、
しばらくの間天気の悪い日が続いた。雲が厚くて風が強くて、重たい雲が次々に吹き飛ばされていく。ベルトコンベアに乗ったお餅みたいに。
みいちゃんは毎日うちに来てご飯を作ってくれて、夜は私の部屋に泊まっていった。
「自分のおうちに帰らなくていいの?」
と聞いたら、
「ヒオリちゃんの所に来た方が安心だもの。」
と言った。何が安心なのだろう。みいちゃんが居たら私が安心と言う意味だろうか。それともみいちゃん自身が安心ということなんだろうか。
おかあさんとおじいちゃんはどこに居るのか。
もう二週間も見掛けない。
おかあさんはまたそこら辺の野原を歩き回って居るんだろう。
おかあさんはだいじょうぶ。死なない。不思議とあのひとは何日のまず食わずでいても弱ると言う事がない。
以外におとうさんがめんどうみたりしているんだろうか、と思ったりする。案外仲良かったりして、あの二人は。なんて思ったりする。
両親についてそんな風に考えるのは初めてだ。皆がおとうさんのことをちゃんと教えてくれたせいかもしれない。
風の強い荒れた天気の日が続いていた。何日も何日も続いていた。
鷲ヶ峯の大旦那さんが来ているからだ、と私は分かっていた。三郎彦の所に来ているのだ。
鷲ヶ峯の大旦那さんにお墨付きをもらえたら。
そう三郎彦は言った。正式に狗賓になれると。おやっさまから鏑木の格、と言うのをもらえるんだと。
そうしたら。
そうしたら間崎さんはおとうさんを食べてしまう。そして私は。
私はまた、自分の右手を眺めていた。夜になってみいちゃんは蛇の姿になって私の部屋の床にとぐろを巻いている。
おとうさんにあいに行くとき私はこの手に何を書くのだろうか。そう、悩んでいるのだ。自分を守るために。おとうさんに会ってもだいじょうぶなように。
一回こっきりだ。と私は思った。一回だけ。一回しか会えないのだ。
私はずうっとおとうさんに会いたかったのだとやっと気付いた。会ったことが無いから気にしていただけだと思ってたけど。
でも違った。私は、帰りたかったのだ。自分の命の源のある場所に。
私のおとうさんは、ウブスナなのだから。私は、分かっていたはずだったのだ。
ちゃんと。それがやっと分かった。