長編お話「鬼子のヒオリ」の | 文学ing

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森本湧水(モリモトイズミ)の小説ブログです。

「お爺ちゃん、ウブスナってなんなの?」
「土地のいのちの源だ。」
お爺ちゃんは茶わんのお酒をのんでいるだけであまりお料理には手をつけていなかった。

「草だに木だに、岩だに、もちろん人だに、まんぐるじゅうのいのちの源になっとるのが、ウブスナだ。
野の子の親がその担い手。そして担い手を守っとたんが、山の親爺だ。」
「おやっさま?」
ああ、そっだ。
「山だにいのちの源の宿る場わだけえな。産土の担い手の守り役は狗賓のするこった。狗賓は山守り役だけえなあ。」
とお爺ちゃんは難しい顔をして話す。

「それで、私が生まれたのとおとうさんのこと、もっと教えてよ。」
「この土地の産土はもう限界と言うことなんだよ、ヒオリさん。
だからクグノチは種を残すことにしたんだ。
そうなんだろう、三郎彦くん。」

「何もかもお見通しって感じだな。
だから俺は昔から神通持ちが嫌いなんだ。」
と言うと三郎彦は稲兄さんに、態度が悪い、大体昔も何もお前が神通持ちに会うのはこれが初めてだ、と叱られていた。
「にいやんはいちいち細かいな。」
三郎彦はにやっと笑ってお酒のコップに手を伸ばしている。

狗賓を継げたことがうれしいんだな、と私は思った。
この頃の三郎彦は、なんだか自信に満ちているのだ。

鏑木のお爺ちゃんが頷いた。
「三郎彦が生まれる前のこった。
クグノチから山の親爺に通達が降りた。もうここの土地のウブスナは枯れる。
ウブスナが枯れたらワシも枯れ果てるその前に種を残して置きたい。そう、山の親爺に言った。
だけえお前が生まれてきたな、三郎彦。」
三郎彦はお酒をごくごく飲んで黙っている。
っちゃあ、とお爺ちゃんが呆れた声を出した。

「狗賓の小僧もまんだまんだちことやな。」
三郎彦は慌ててお酒を飲み干す。

「おい、敷居の爺さんそりゃないだろう。」
「三郎彦くんは新しいウブスナの担い手を守るために、ヒオリさんより先に産まれてきたんだ。」
と、間崎さんもあんまりご飯には手をつけていない。

「私ですか?」
うん、
と間崎さんが言って他の皆が黙る。
「ヒオリさんが土地のウブスナの新しい担い手なんだよ。」