長編お話「その顔に、根の跡」36 | 文学ing

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森本湧水(モリモトイズミ)の小説ブログです。

隣に座った女はシンルーチューをロックで頼むとテーブルの上に既にあるものに、極当たり前に箸をつけた。
そして食べながら間抜け面5人に言う。誰かに言ったんじゃなくて、5個ならんだ間抜け面に対して言った。そんなしゃべり方だった。

「それで、皆さん初めまして。
誰なんだったけ?」
とその女は言った。

「立川中学の同級生だった、岡村雄二です。」
「僕も改めて、立川中の沢谷康人です。」
「同じく同級生でした。俺は坂岡宏志と言います。」
「左に同じ。宗田水穂です。」
「俺も同級生でした。小田切嘉明です。」
「はい。
みなさん初めまして。どうぞよろしく。小川ユカリと呼ばれていたものです。」

変な会話だった。元々知っているはずの者同士が初対面の挨拶をしている。
確かに私たちはもう中学生ではない。頭が悪いばかりでは居られない。一端の無記名的な大人になってしまった。
初めて会うというなら、
会うのは今夜が初めてなのかも知れない。

「それにしても良く私の事なんか覚えてたね。学校なんてほとんど行って無かったのに。」
「え、そうなの?」
坂岡くんが取り皿回しながら聞いた。
「そうよ。不登校だったもの。一応卒業はするつもりだったからたまには学校行ってたけど。でも本当にたまに、よ。たま。家に居るの飽きたら行く感じ。
そんなんでよく覚えてたね。」

隣の女は冷たいお酒をぐびぐび飲んでいる。案外旨そうにものを食べる女だな、と私は思ってみていた。
「から揚げ食べる?」
私は聞いた。
「この、上に掛かってるの何?」
片眉に不信が乗る。
「チリソース掛かってる。」
「ふーん。」
女は安心したのか関心が無くなったのか、箸をお皿に伸ばした。

「それにしてもみんな同じ学校だったのね。
もしかしたら他にもきょうだいにした同級生居るのかな。
学年皆さんきょうだいだったりして。
仲良しクラスか。」
と、淡々と女はしゃべった。声は笑っていたが顔は何にもしていなかった。
この女の違和感はそういうところにある。楽しそうに話しているのに顔がお留守になっているのだ。顔色と呼べる物がない。

「ごめん、正直すぐ君だって分かったわけじゃないんだ。
君きっと随分変わったよね。そんなにかわいくなかったろ。」
と岡村くんは割合と失礼なことを聞いている。
「ああ、こんなもの全部ウソっぱちよ。」
女は自分の顔を箸でぐるっと指しながら言った。こんなもんにだまされるの? ばかねえ、と言った。

「君首のこの辺に痣あったよね。」