「おいてめえ、何勝手に話そうとしてやがる。」
驚いた。
全く気配を感じなかったから。私の隣に狗の姿の三郎彦が立っていた。いつだって、姿がなくてもよく分かった三郎彦の存在が、感じ取れなかったのだ。
改めて狗賓を継いだからだろうか。
銀色だった毛並からかすかな光が上がっているみたいになっている。
三郎彦が金色の霧を身に着けているみたいなのだ。
「三郎彦。」
「鬼子。こんな人間の話なんかほいほい聞いてんじゃねえ。」
怒ってはいなかった。でも三郎彦の声は冷たくて尖っていた。
牙を剥いているときよりも更に怖くなったようで私はなんだか嫌だった。三郎彦が変わってしまう。
全然知らない三郎彦に成っていくようで。
ううん、違う。私が今まで何も知らなかったのだ。
おとうさんのことを、おかあさんのことを、私のことを。
「君のおとうさんはクグノチなんだ。」
「おい間崎。」
三郎彦が低く吠えた。
「やめろ。何故人のお前がそんなことを言う。やめろ。鬼子の親のことは俺が話す。そういう約束になっていた。」
「三郎彦?三郎彦が、何を知ってたの。」
そう聞くとでも三郎彦はしゅんとして黙ってしまう。
真面目なんだ。
いつになく三郎彦は真面目になっていた。
「じゃあ君が話してあげればいいだろう、三郎彦くん。
ああ、それより、山中では加護をくれて助かったよ。」
正直山懸けは命を削るからな。
「あーあ。只でさえ早く死ぬのに踏んだり蹴ったりだな、俺。」
「明日はみいちゃんに頼んでなにかごちそうしますよ。」
と私は言った。
「やめて。今食いものの話はつらい。」
でもありがとう。とやつれた顔で間崎さんは笑った。
「一応お前が鬼子を助けてくれたからな。土地神として筋は通す。
だが余計なことをべらべら喋られると迷惑だ。
また俺を荒御魂にするつもりか。」
「でもどのみち話してあげないといけないでしょう。彼女の父親はもうすぐ俺が食べてしまうんだよ。」
ふん、と三郎彦が鼻で言った、そんなぼろぼろのヤツがウブスナを飲み込めるかよ。
「まあ、それを言われると情けないよね。」
はは。全く俺何やってんだよ、と間崎さんは首の裏を掻いている。
「ねえ三郎彦?私のおとうさんは野の神様じゃないの?みんな何か隠してたの?」
三郎彦は困った顔をして私を見てる。
「簡単に言える事じゃなかったんだよ。分かってくれよ。」
「ここまで言っといてなんにも教えてくれないなんて酷いじゃない。」
「だってよ、鬼子よお。」
「もうおだんごあげないよ。」
「そんないい方すんなよ。」
三郎彦はますます困った顔になる、お団子好きだからな、と私は思っている。
「教えてくれないなら別に間崎さんにおしえてもらうからいいのよ。」
おだんごもあげない、と言ったら、
「おい。なんだよそりゃ。」
と三郎彦がわんっ、と大きく吠えた。