小説「プール」 | 文学ing

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森本湧水(モリモトイズミ)の小説ブログです。

高校を卒業してほっとした。もう体育の授業を受けなくてもいい。体育科のある大学なんて選ばなかったもの。

もうプールに入らなくても済む。高校の卒業式が終わって、家に帰る前、最期の名残にプールの棟を回って行った。
さようなら。
もう二度と、私はあなたとひとつになったりしない。

幼稚園児の頃から私には妙な癖があった。プールの底に沈んでしまうのである。数限りなく危険な状態になって保健室に運ばれて、
だいたい一夏の半分が過ぎると私はプール授業見学措置となっていた。

泳げないんじゃないのだ。

泳ごうと思わないのである。

お風呂なら大丈夫。でもプールは本当に駄目なの、私は、自分が
「水に解けるんだ」
と言う妄想に捕らわれてしまう。

プールの水の中に体を浸していくと、私は自分が水になっていく夢を見る。
夢の中に引きずられていく。砂糖かなにかになった気分になってしまうのだ。
私は水に解ける。
私はこの水のなかで細かくばらばらに分解されて、目に見えない姿に変わっていく。
そうだそうだ。きっとそうにちがいない。

普段はそんなこと考えないんだけど、水に漬かると駄目になるの。
私は解ける。
どうしてもその夢に解けていく。

だから私はプールの中で動くのを止めて目を閉じて、ゆっくり水底に沈んでいく。
そして慌てた教師に寸でのところ救出されるわけなのである。

水に解ける夢は愉快だった。自分がちいさくちいさくなっていく夢はこの上なく心地好かった。小さく解けて、

水に成ってしまいたかった。

そんなわけには行かない、
生きていかれなく成ってしまうもの、だから私はもうプールには入らない。より生きていかなくてはならないもの。

私は高校を去るときプールに余波のお別れを告げた。
もうあの夢に沈む事もない。