長編お話「鬼子のヒオリ」の34 | 文学ing

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森本湧水(モリモトイズミ)の小説ブログです。

間崎さんが唱えると
おじさんの布袋が手の中で風船みたいにぷわわっとふくらんで、次の瞬間

ぱひゃん

と音を立てて萎んだ。中に入っていた何かが砕けたんだ。私は思った。卵みたいな軽いものが割れる音だった。

楢岡と言うおじさんは両手で自分の頭を抱えると、訳のわからない、意味のない事を口走りながらばったんと地面に倒れて動かなくなった。
倒れたっきりぴくりともしなかった。同時に三郎彦に吹き付けていた風が止まった。

「鬼子!!」
三郎彦がすごい勢いで私に駆け寄ってきて、でももう怒ってはいなくて、くうううう、と喉を鳴らしながら私の体にすり寄ってきた。
私は楢岡と言うおじさんのことよりも間崎さんが何をしたかよりも、
今の三郎彦に驚いていた。こんな風に私に体を擦り付けてくるなんてほんとに、ほんとに小さな頃以来だったのだ。

くうう、
くうう、
と小さく泣きながら、三郎彦は両目を閉じて大きくなった体を何度も私に擦り付けていた。

私は、固くて滑らかな毛が私の体に触れる度に、三郎彦がどのくらいびっくりして、でそれからきっと、怖かったんだろうな、私よりも。
そんなように感じた。

だから私は悲しくなって。
「大丈夫だよ。大丈夫だよ、三郎彦」
太くて立派になった三郎彦の首を抱いて頭を撫でた。
ここしばらくはそんなことをするとむちゃくちゃに機嫌が悪くなっていた三郎彦だが、今は黙って私に頭を撫でさせていた。

間崎さんは携帯電話を取り出して何処かに電話を掛けている。

「あ、どうも。お疲れ様です。器使の間崎です。
今鏑木地区と言うところに来ています。
えーっとですね、鳥取と岡山県の県境近くです。
あ、でね、止め屋の楢岡なんですが。こいつがちょっと問題起こしまして、
ええ、はい。すみません。僕の配慮が足りませんでした。
一般人のお嬢さんを拉致するような真似に出まして。
やむ終えなかったんで拘束してあります。処理をお願い出来ますか。鏑木の、えっと今木神社と言うところの境内に居ますから。
信条を砕きましたからしばらく動けないはずです。
ええ、仕方なかったんです。何せ一般の方を巻き込んだ訳ですし。
はい。これからです。
では楢岡の事はよろしくお願いいたします。」

間崎さんがそんな風に電話で話している間三郎彦は私にぴったりくっついて離れなかった。