長編お話「その顔に、根の跡」21 | 文学ing

文学ing

森本湧水(モリモトイズミ)の小説ブログです。

岡村くんが、どうしたんだろうと思ってコンビニの雑誌を斜め読みしていたら、だいぶんまともな頭になってきた。

私はスポーツドリンクを一本買い店の外で飲んでいたら、街路灯に照らされてその方が一層暗い道の向こうから岡村くんが歩いてくるのが見えた。

「よ、久しぶり。」
と岡村くんは言った。
「ごめん、呼んでもらっといてなんなんだけど、ちょっと御手洗い借りてくるから待って。」
「おお、使っとけつかっとけ。」
と彼に言われて私は再びコンビニの中に入る。
最近のコンビニのトイレは巨大だ。車椅子でも入れるデザインに成っているからだ。
私は車椅子の人向けにユニークな角度になっている鏡に映っている自分を見た。

枯れる前のサボテンがまだ粘ってるみたいなの、が映っている気がしてしまった。私はこんなところで何をしてるんだ? 心から疑問に思った。この、しわしわのサボテンは。
何故さっさと枯れてしまわないのか。土に帰ろうとしないのか。還れないわけでもあると言うのか。ありゃしないだろう。それにしても私はなんてサボテンなんだろうと感心してしまう。

そしてトイレは巨大でもコンビニの陳列棚は車椅子用には出来ていない、絶対に。

ありがとうございました、
に送られて外に出たら岡村くんがスマホゲームをしながら待っていた。こういうちょっとの時間の癖になっているんだろう、と私は思う。
「ごめん、待たせた。」
「いや、いいよ。大したことねえよ。じゃ、往くか。」
「ヤッちゃんや小田切は?」
「みんな仕事あるからって帰ったよ。」
「岡村くんは?」
「俺はフリーランスみたいなもんだから。」
「ああ、そう言えば私もそうだわ。」
私は何故かその時、自分の仕事の事をすっかり失念していた。何故だろう?

岡村くんに着いて歩いていったら、雑居ビルの1階にあるbarについた。
「bar?」
「そう、bar。」
しっかり年期の入った硝子戸には、

bar blue in green

とゴシック体で書いてある。岡村くんは慣れた身のこなしでその取っ手を押した。
からんからん、
とだけ音が聞こえた。
「今晩は。」
と岡村くん。
「いらっしゃいませ。」
バーテンダーさんがグラスを拭きながら静かに言う。
細長い店で、艶やかな茶色のカウンターとその向こうに並んだモザイクみたいな酒瓶しかここには存在していない。
そしておそらく、ジャズ、と思われる音楽があくまで微かに流れていた。
私は岡村くんとbarに入っていた。
へんてこな組み合わせだとどうしても思う。