じいさんの妙な好みだったのだ。
その鏡にはへんな屈折が施されていて、満月がそれに映ると必ず月二つの姿になるように作られたのだそうだ。
我が家で唯一満月が差し込んでくる窓の真っ直ぐに取り付けられているので、
ほとんど他の何ものも映さずに、もうすぐ割れてしまいそうな古びた鏡である。
じいさんは珍奇なことが大好きな人だったんだけど、何をどう小細工すれば月が二つに化ける鏡なんて作れるんだ。作ろうと思うのだ。
計り知れない。
ただ従妹がこっそり教えてくれた事なんだけど、
じいさんが死んだ夜は満月で、いよいよ死ぬと言うときに、彼女は件の鏡のある部屋に、たまたま探し物をしに入ったのだそうだ。
その時、
いや、他の時があったのかもしれない。
でも見たのはその従妹だけだった。従妹がみた一度きりだった。
じいさんがそれを意図してやったことなのか。意図すれば可能な事だったのか。それとも
意思だの意図だの全く介さない何かだったのか。
鏡に月が三つ映って居たのだと言う。
天に一つ、鏡に三つ、じいさんが死んだ晩だけそんなにも月が。
鏡に映った月は競うように乱反射していて、従妹はあわくってその部屋から逃げ出したのだそうだ。
なんで? と、聞いたら
あんなにおっかないものもない、
と従妹は答えた。