長編お話「鬼子のヒオリ」の24 | 文学ing

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森本湧水(モリモトイズミ)の小説ブログです。

「じゃあ身を守る方法を教えてあげよう。
いざ、
おとうさんが荒くれた時に、ヒオリさんが自分で自分の身を守れるようにね。」
それが出来たら、そうだね。おとうさんの所に連れて行ってあげられるかもしれない。

間崎さんはそう話した。
「身をまもる方法ってなんなんですか?」
「大きくまとめて護身法っていうんだ。
いろんな方法があるけどヒオリさんには難しいから、一番やりやすいヤツを教えてあげるね。」
「はい。」

間崎さんは羽羽木を左手に持ち替えて、私に彼の右手のひらを見せた。
「ヒオリさんの利手はどっち?」
「右手です。」
「じゃあ右手に左手の指で自分の名前をなぞって。
真名が解ればその方がいいんだけど。威力が強いから。」
と間崎さんは難しい顔している。

「真名ってなんです?」
私はこの人に質問ばっかりしているなあ、と思う。
「本当の自分のことだよ。
アイデンティティと同じ。
自分が自分であることを
自分で自覚しているということを、
自力で証明出来ること。おれだったら羽羽木の存在がそれだね。」
「すいません、ちょっと早くて分からなかったです。」
間崎さんの話は時々すごく難しい。

「要するに、自分の一番大切なものの名前を利手のひらになぞるんだ。
そしてその手をぐっと握りしめる。」
間崎さんは自分の右手を広げ、それから力強く締め上げた 。

これで私のアイデンティティは誰にも侵されない。

確信するんだ。それを。これがヒオリさんに教えられる一番簡単な護身の方法。」
「とにかく右手で自分の名前を握りしめればいいんですね。」
私はこんがらがりながらも教わったことを頭のなかではんぷくするのだ。
そして、私が私であること、その為に大切なことって何だろう、考えた。

みいちゃん、稲兄さん、鏑木のおじいちゃん、三郎彦。

おとうさん。

他には何も思い付かなかった。私は手のひらを見つめて、剃刀でもって新しい線が引かれたような痛みを感じた。ぴりっとしたやつだった。