「ちょっと気になってるんだけど、いいかな。」
岡村くんがトングで焼き網に肉を広げていたから、
「何?」
と聞き返されたんだけど、
「いや、ごめん、小田切に。」
と私はジョッキを持ち上げながら謝った。そして小田切に言った。
「それはほんとに小川さんだったのか?」
どうしても気になったから聞いてみたかったのだ。
だって私は小川さんの顔がどうしても思い出せない。顔は思い出せないのにそれ以外に余計な事ばかり思い出す。
だから小田切にも確認しておきたかったのだ。
「うん。間違いなく小川さんだった。」
「ばーか。」
私は焼けたよ、とヤッちゃんが教えてくれたタンシオを遠慮なく自分の皿に取る。
「なんでそう確信があるんだよ。」
私はビールを頼みながら問い詰めた。
「だから、小川さんてこの、左手のこの辺りにでかい切傷の跡があっただろ。」
小田切は左手の腕の甲の辺りを自分ですーっとなぞってみせた。
ああやっぱり。
やっぱり私は覚えているじゃないか。またしても。それを。そこにあったそれを、その陰惨な傷跡を。
他にはナンにも思い出さないのに。
「なんでどいつもこいつも揃いも揃って他のこと覚えてないんだよ!」
私は何故かむかついたのでジョッキ持ったまま怒鳴ってしまった。しかし、
「宗田さん、怒るなよ。また飲み過ぎるぞ。」
坂岡くんに言われて、私は前回のことがあるから、一旦酒の入れ物をテーブルに置いた。
「でも確かに本当だよな。
なんで俺たちあんな、傷跡の事ばっかり覚えて他のことは忘れてるんだ?」
岡村くんは今度は焼き網にハラミを並べながら一人ごとみたいに呟く。
一人ごとみたいだったけど私たちの全員が反応した。
「なんでみんなこんなに小川さんのこと忘れているんだ?」
そして何故その傷跡の事だけを鮮明に覚えているんだ?