小説「ダンス」 | 文学ing

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森本湧水(モリモトイズミ)の小説ブログです。

夕暮れが雨垂れているような藤棚の下に、お行儀よくおじいさんたちが5人、ベンチに並んで座っていた。

私は藤の花が好きだ。桜より好きなくらいだ。だから毎年年度始めは5月近くなる方が気持ちが上がる。

どうしてだかは分からない。
ひょっとすると藤と言う花が木として自立していないからなのかもしれない。
なにかに寄りかからないの咲けない花だから。

それでいてしがみつくとなるとそれは強烈だ。

兎に角私はあのお祭りの飾りみたいな夕暮れ色の花が好きだ。
だから近所の藤棚を眺めに散歩にきたら、行儀よく座って順番を待っているおじいさんたちに遭遇した。

リハビリ士のようなひとがおばあさんを一人立たせて両手を採り、ゆっくりと藤棚の下を歩かせている。

いや、
歩かせようとしている。

おばあさんの足もとは盛大に覚束無い。リハビリ士の男性を掴んでいる腕も、容易に一歩前に出ようとしない足も
ぶるぶるぶるぶる
震えている。いやがくがくしてまったく姿勢として安定していない。

そして両手でしっかり男性にしがみつきながら、顔はセメントを塗られたみたいに固まっている。もう4、5年は表情を使っていないんだろう。

ここの藤棚の花は房が短い。風が吹いてもそんなに揺れたりしない。

ぶるぶるぶるぶる歩いているおばあさんはなんだかダンスをしているようだと私は思った。
これはこれでコンテンポラリーなダンスだ。誰にもマネ出来ない。

何が出来なくても、何を失っても、しがみつくと言うことはやめない、そのコンテンポラリー。