私は宗教学概論の講義で隣に座っている女の子と仲むつまじくポッキーを分けあっているレアン先輩のことを見ていた。
びっくりするくらい髪の短いこだった。
教養科目は何年生が受けてもいいので彼女が私より歳上なのかどうだか分からない。分からないのは講義の性質のためだけじゃなくて、
ほとんどボウズに近いその髪形から年齢の判断が難しいのである。
また私は第二講堂の中庭
(第二講堂は半円形の構造になっている)
の、八重桜の木の下のベンチで、真剣な顔で眼鏡の女の子とテキストの内容について話し合っているレアン先輩を見掛けたことがある。
レアン先輩たちは三回生である。
ぼちぼち卒論の為の準備が始まるのだと言う。
入学後やっと三ヶ月の私には、いずれ自分にも順番が来ることは分かるけど、
分かることが理解することには
到底追い付かないのだった。
夏の始まりのある日だった。
あるいは私は購買部二階のデリカテッセンにて同じトレーに乗せたコーヒーをそれぞれ啜りながら、
くっついてタブレットに見入っているレアン先輩と頭を二色に染め分けた女の子を見かけたりもした。
タブレットの中に何が写っているのかは分からないけど、一定のタイミングを置いて二人が肩を震わせて居たので、きっと動画サイトでも眺めていたんだろう。
私が見掛けた三回だけでもレアン先輩は三回とも違う女の子ととっても楽しそうに笑っていた。
「結局レアン先輩は何人と付き合ってるんですか。」
その時は私と学食でお昼を食べていたレアン先輩(カツカレー[とは言っても出てくるのはメンチカツ])に訊ねた。
レアンはカツにルーを丁寧にまぶしてからさきに食べてしまって、残ったライスをゆっくりスプーンで集めている。
「分かって付き合ってくれてる子が、三人かな。
それ以外には二人。」
「それ以外ってなんですか。」
私(フルーツサンドイッチ[ミカンとパイナップル])は良く分からないところを聞き返す。
「他にも付き合ってる、て知ってるこが三人。
自分一人だけだって思ってるのが二人。」
「そう言うのってすぐばれませんか。」
「女の子って生息してるフィールドが違うとコミュニケーションとらないでしょ。
」
レアン先輩はカレーライスが好きらしい。
ゆっくり味わって食べている。
「でもまあ、いつかはばれるから俺ってすぐ振られちゃうんだよね。」
そんなレアン先輩なんだが恋愛に軽薄だと言う評判が何故か、ない。
「5人も付き合ってるのに私にも付き合ってって言いましたよね。」
私はパイナップルにマーガリンと言うのは意外においしいなと思いながらパンをかじりコーヒーを飲む。
「うん。実は俺後藤ちゃんのこと諦めてないぜ。」
「嫌ですよ5人も付き合ってるひとなんて。」
私は言った。
「こらえ性がないんですね。」
「違うよ。言っただろ。縁はどこに転がってるか分からないって。」
「なんで縁をそんなにだいじにするんですか。」
「なんでって。無い方が当たり前だからじゃないか。」
こう言った時のレアン先輩は見たことがないくらい真剣な目をしていた。
「俺が付き合ってって言っても付き合ってくれないこの方が断然多い。
後藤ちゃんがそうなように。
大体生きていて出会わない女のひとのほうが絶対的に多数なわけだろう。
統計学的に。
だから同じ大学来て同じテーブルで一緒に飯食ってるのって俺には凄く大事なことなわけなのよ。」
レアン先輩は何人と付き合っても、けしてどの子にも手を抜かないのだ
私にそう言ったのは雨先輩。
「俺は世の中に人は山ほど居るのに、
どうしてかで同じ大学に入れたことが嬉しくて仕方ないのね。
だからどの人も大切なんだ。どうしようもない。」
私は別にレアン先輩には反感はないんだけど疑問は湧いた。
そこまでの規模のものはもはや恋愛と言っていいのだろうか?
レアン先輩が実行しているものは、違う、きっとなにか違う。
なにかもっとどでかいものだ。私はそう思ったのだった。