「でもみんな発音違いますよね。
東尾ゲンゴさん、じゃなくて、完全に
“東尾言語!”
て呼んでますよね。」
「それはこいつが言語フェチだからだ。」
「名は体を表す、とは言ったものですね。」
レアン先輩と、梶先輩が代わる代わるに言った。
「ゲンゴ、お前の愛読書教えて」
「万葉集。」
東尾先輩は即答した。
「万葉集はファンキーなんだよ。」
瞳がきらきらと輝き出す。
「万葉集の時代の言語と言うのは、システムなんだな。programming言語と非常に近い意味を持っているんだ。
現象を引き起こす為の原因となるべきものが言語だったんだ。
音律を組み上げて時と場所を選らんで、其処に人の音声を乗せることで
何かが起きる。
何かを起こす事を意図して言葉を選んで文に組んだんだ。
何が起きるのかと言うと、それは最も小さいものでは、人の心が動く。
玉きわる
宇治の大野に馬並べて
朝踏ますらむ
この草深野
こう言うのを誉め歌と言うんだ。ひと、もの、場所を誉める事でそこから現れる
現象
を招こうとするシステムなのだ。な、すばらしいと思うだろ。
だから万葉集はファンキーなんだよ。」
「万葉集が、じゃねえ、お前がファンキーなんだ。」
「とんでもない。
持統天皇なんかに比べたら俺なんかまだまだ」
「とんだビッグネームを引き合いに出したね。」
先輩たちはジャガリコとアルフォートを食べ、やかんのお茶を回しのみしながら盛んにそう言っていた。
ふうん、仲良しなんだ
私は興味半分で着いてきたが為についでに増えてしまった疑問についても口にした。
「ところでここは元は部室なんですよね。」
三先輩はイッセイに黙る。
黙ったなかで東尾先輩がやおら咳払いをして話した。
「そう、後藤ちゃんにも今後俺たちの秘密を共有してもらわなければならないのです。」
「ここね、梶が住んでるんだわ。」
とレアン先輩。
「え!」考えるより本音より先ず声が出てしまった。
「僕はとても貧乏なんです。」
と梶先輩が言った。
「梶はミスター清貧だからな。」
と東尾先輩が言った。
「大学に届けなければいけませんから一応住所は持っていますが、殆ど住んではいないのです。
ここを日常の住居に使っています。
もちろん不法占拠ですからね。ばれたら非常にまずい。大学退学と言うこともあるかもしれない。」
「俺とレアンはなんとなく梶に付きまとってる相田に偶然しっぽを掴んだんだ。」
「東尾くんと大広くんは入り浸ると言うことで密告を無しにしてもらう約定がむすんであります。
後藤さんも、どうか秘密を共有してもらわないと、僕の進退に関わってくるんですね。」
そう言われて私はただ頷いた。
唯唯、お茶がオイシカッタというだけで。