入学式の次の日はいちにち新入生歓迎イベントだった。
サークルとゼミの勧誘が、目的なのである。
校門を入ってからずらりならんだ先輩たちが賑やかだった。皆がチラシを配っている。クリオネ研究会、赤毛のアン実践部、無人島生存研究会、キャンピングカー同好会。ピラミッド部。へんなのばっかり。
大講堂のエントランスにはバンドが控えていて、観客もわらわらいて、今にもライブが始まろうとしていた。
「新入生のみなさん、
ご入学、おめでーとうございます!」
クヮワン
とマイクのノイズも高らかにボーカルの先輩が叫ぶ。
「おい、チューニング確認して。」
ダダダダンッ、とドラムスが鳴り、サイドギターギュウイーン、の間にその他の部員が慌ただし機器をいじっていた。
「本日は佛華大新入生歓迎イベントとして佛華大バンド部のミニミニライブを、これより、」
「おまえらのリリックなんざファンキーじゃねえんだよっ!」
マイクよりもさらに響く声がわらわら集まった1回生の群の外側で言った。
私がその人の声を聞いたとき、私はバンド演奏を聴くかどうしようか迷って、まだ群の中には入りきっていなかった。
「うるせえぞ!!東尾言語!!」
ボーカルの先輩は怒鳴った。マイク使ってないのに大きな声だった。
「ヤジ禁止、ヤジ禁止でお願いしますよ。」
と言ったのはベーシスト。
観客の学生たちはヤジ? の主を探して瞬間バンドを無視していた。
でもヤジ禁止、と言ったベーシストの声は別に不愉快な物ではなくて、ベースの先輩、手のひらを前に出してひとをなだめるジェスチャーをしながら、笑っていた。
「言語とは悉く、
マシーンなんだあ!」
今度こそ声の持ち主を見つけたら、その人は、
太陽を仰ぐポーズ、分かりにくければこれからカメハメ波打ちそうな、
より分かりにくければ、なんだか不可解な気合いたっぷりに両手両足にに力を込め、叫び、
そのまま悠々と歩いていった。
肩に、何か分厚い本を担ぐようにして。ニット帽を被りグレイのパーカーの後姿。
「この学校には、残念ながらああいうバカがいます。ミライアルみなさんは、是非とも真似しないように、
真似しないように、お気をつけくださーい。」
直ったマイクを持ってボーカルがちゃかすと群衆が沸いたのだった。
私はその人のことを後ろからしか見なかったのだけど、今まさに私を転ばした、本人で間違いないと思った。
「東尾言語?」
「はい。いや、まて酷いないきなり呼び捨てか。
じゃない。申し訳ない。大丈夫?
こんなところに普段人来ねえから。怪我は?」
「いえ、どこも、対して。」
私は膝と手のひらを見比べた。赤くなってはいるが怪我という程ではない。
「そうだな。大ごとにならなくて良かった。
申し訳ない。埋め合わせはする。お茶を上げるよ。次の今日はもう講義無いでしょう。」
午後4時。回っていた。
その人は私を突如足かけしたことに、そのひとの方がショックだったらしい。
切れ長な目尻は冷静だったが顔全体で動揺していた。
「お茶を淹れられるやつがいるから、ご馳走しよう。とりあえず立ってみようか。」
言われて、私は手を借りて立ち上がる。
「はい。」
素直に頷いてしまった。
東尾言語?